執事的な同居人
「……まあでも、俺の忘れ物だと思って持って来てくださったんですね。その気持ちは凄く嬉しいです」
スっと伸びてきた手が
私の頭に触れる前、
「…………………」
ピタリと颯太さんの動きが止まる。
(……あ。そっか、)
外で触れるのは禁止なんだっけ。
きっと頭を撫でようとしたんだと思う。
けれど、私達の間で約束した決まり
『外での接触は禁止』
その事が頭に浮かぶ。
颯太さんも
その事を思い出して
思い留まったのだろう。
(……残念。)
颯太さんがあのまま気づかなかったら、頭を撫でてくれてたのになぁ。
近くにいるのに
すぐ触れられる距離にいるのに
「………………」
キョロキョロと周りを見渡した。
階段には私達以外誰もいない───から、
キュッ、と。
颯太さんの人差し指を軽く握った。
「これぐらいは…いいでしょ?」
もしここに誰かが来たとしても
パッと離せば済む話だし、
ましてや
この場面を見られたとしても
勘違いされるような事でもないと思う。
「紀恵さん……」
と、颯太さんは何かを言いかけたけれど
その手を振りほどこうとはしない。
…………が、
触れられたのはたった一瞬だけで
上から誰かが降りてくる音と共に、その手を離した。
降りてきた人が私達の元を通り過ぎると、
「─────ルール、破りましたね」
コソッと耳打ちをしながら
ニコリと微笑む彼は
「家に帰ったら」
いつもと違って
「お仕置きですよ。」
どこか危険な香りがした。