執事的な同居人
「いえ…大丈夫です。それに、カズさんは何も悪くないので……だからもう気にしないで下さい」
カズさんと同じように壁にもたれ掛かった。
隣から仄かに煙草の香りがするけれど
「な、なんですか……?」
クスクスと笑い始めたカズさんに
え、なに?とオドオドする私。
何かおかしなこと言ったっけ…?
「やっぱり、似てるね」
「え?」
「颯太さんと、キミが。」
「そ、そうですか?」
「うん。かけてくれる言葉が全部一生。」
「!!」
「兄妹、仲が良いの羨ましいよ」
そう言うカズさんはどこか遠い目をする。
そうだった。
私と颯太さんは兄妹の設定なんだった。
「カズさんは…麗華さんと仲良くないんですか?」
すると、一瞬間が空いて
「…………まあね。
俺は、颯太さんみたいに妹を大事に出来ていないから」
と、悲しげな表情を浮かべた。
カズさんは"妹を大事に出来ていない"と言うけれど
「………悪いことを悪いってちゃんと叱るのは、その人のことを大事に思っているからこそ出来ることじゃないですか?
あの日、カズさんは麗華さんにちゃんと叱っていましたよ。どうでもいいと思っている人には、叱るなんてことしないと思うんです。
大事に思っているからこそ……次またその失敗をその人がしないようにと思って、叱るんだと思います。」
今日颯太さんに叱られたのは、私がまた大事な書類を無くさないようにと叱ってくれた。
「だから……カズさんはちゃんと麗華さんのことを大事に思ってます。自分の大切な妹だって。…麗華さんの話をしている時のカズさんは、とても優しい目をしてますし」
表情は偽れても、
目は偽れないと思うんだ。
「キミは……」
何かを言いかけたカズさんだけど、
「あっ!やばい!もうこんな時間!!」
「……何か用事?」
「はいぃぃ!」
颯太さんが帰って来るまでには家に着いとかないと!!
絶対「何処に行っていたんです?」って聞かれるに決まってる。
颯太さんに嘘なんて通用しないだろうし……
(ホスト街に行ってたことバレちゃう…!)
「じゃあ!私はこれで!!」
「あ、うん。お土産ありがとう。気をつけてね」
「はい!………あっ!ここに私が来たこと颯太さんには内緒にして下さいね!!!」
そうカズさんにお願いをして、再び帽子を深く被り直しその場を後にする。
「颯太さん……?」
カズさんがその呼び方に怪訝に思っているにも関わらず。