執事的な同居人
「もう、食べたからっ…」
「そうですか。偉い偉い」
そう言って私の頭を軽く撫でた。
「すみません、まだ苦味が残ってたみたいですね。充分に加熱したはずなんですが…」
途中
ピタリ。
颯太さんの動きが止まって
「────え、な、なに」
無言で私の首元に顔を寄せると
「その辺を散歩したって仰ってましたけど、どの辺を?」
ギクリッ
「ええっと……」
これはマズイ。
その話はもう終わったと思ってたのに…
「……ほ、本屋さんに行ってたの!」
なぜその話に切り替わったのか分からないまま、嘘をついた。
「本当に?」
「ほんとほんとっ…!」
「………そうですか。」
どうやら信じてくれたみたいで
颯太さんはゆっくりと姿勢を戻し、今日の晩御飯であろう料理を再び作り始めた。
(良かったぁ…)
案外バレないものだな。
ホッと胸を撫で下ろし
「カズ、元気そうでしたか?」
「あ、うん!元気そうだっ…た…よ……」
たのがいけなかったみたいで、
「っ!!!!!」
パッと口元を抑えても
時すでに遅し。
「紀恵さん……」
颯太さんは「はぁ…」と呆れたように溜め息をつく。
「ホスト街には行かない約束ですよ」
「だ、だって…」
「まだ分からないんですか?あの場所がどれほど危険な場所か。酔ってる男が山ほどいる場所ですよ?そんな場所にあなたが1人で行けばどーなるか分かりますか?」
あぁ……やばい。
完璧怒らせてしまった気がする。
カタッとお箸を置いた颯太さんに
私の身体は自然と後退り。
逃げ出したい気持ちは山ほどあるけど
「……分からないなら、教えてあげますよ」
颯太さんに腕を掴まれてしまっては、もう逃げられない。