執事的な同居人
そんな気分だというのに
「島崎。来週から2週間○○の方に出張ね」
上司から言い渡されたそれ。
気は乗らないが、
仕事なのだから仕方がない。
仕事に私情は関係のないことであって
けれども良い機会だと思った。
紀恵さんは俺が家にいるのを嫌がってるみたいだし、……これ以上嫌われずに済むのでは。
「ですから、2週間ほど家に帰ってこれませんので。」
「んー」
「…………………」
もっと寂しがってくれると、心のどこかでそう思ってた。
ついには目でさえも合わせてくれないなんてな。
「お風呂、沸いてますよ」
「ちょっ…近づかないで!」
俺から避けるようにしてそっぽを向く。
ガンッ、と。頭に何かをぶつけられたような感覚が脳内に響いた。
(相当嫌われてるな…)
……こんなにも避けられるのは久々だ。
この家に来た時と同じくらい
今の紀恵さんとは距離を感じる。
「………分かりました。」
これ以上関われば
嫌われる一方だと思って
(今は、関わるのやめよう)
その日から
紀恵さんと話をしていない。
全くしていないわけではなく、
「おかえりなさい」
「おやすみなさい」
「ご飯出来ましたよ」
その程度の会話のみ。
紀恵さんは遅い時間に帰ってきたかと思えば、部屋に篭ってしまう。
勉強しているのだろうけど、
会話が減ったのはそのせいでもあって
「紀恵さん」
1週間後。
出張用のカバンを手に
コンコンとノックをしても返答は無し。
今日から2週間
紀恵さんと顔を合わせることはない。
現在9:40。
休日ということもあってか、紀恵さんはまだ寝ているのだろう。
昨日の夜、紀恵さんにはちゃんと伝えた。
明日から出張に行くと。
「うん。」と頷いた彼女は、俺の目なんて見ず、教材にしか興味が無いといったところだ。
そんな彼女が
明日の朝になれば
「行ってらっしゃい」と、眩しい笑みを浮かべ言ってくれるんじゃないかと少しでも期待していた自分を恥ずかしく思う。
ドアノブに手をかけるけど
「…………………」
すぐにその手を離す。
……今は関わらない。
そう決めたから。