執事的な同居人
──────────紀恵side
「………いつの間に」
寝ちゃったんだろう。
目覚めたのは10時になる少し前。
バタンッ、と。
ドアが閉まる音で目が覚めた。
(そういえば寝ながら勉強してたんだっけ…)
ベッドの上に散らばった教材を見てそう気づく。
昨日も自分の部屋で勉強。颯太さんのいない空間だと、勉強が捗ることを知ったから。
………颯太さんがいると、集中出来ないんだ。
颯太さんの姿
颯太さんの声
颯太さんの仕草
そのどれもが私の集中力を切るもの。
姿を見れば抱きつきたくなるし、声を聞けば喋りたくなる。
一つ一つの仕草にキュンっと胸が鳴っては
脳内は颯太さんのことでいっぱいになって、もう勉強に集中できない。
テストの日が近くなった今、それだけは避けたくて…
(さっきの音……颯太さん、かな?)
そう思い、周辺に散らばった教材を払い除けて、部屋を出る。
シーン、っと静かなこの空間。
そのため、家から出ていったのは颯太さんなんだと再度認識できた。
(……また仕事?)
休日なのに?
いや、でも、この間も休日に急遽仕事が入ったって言ってたっけ。
(………、……そういえば)
颯太さん、昨日の夜何か言ってた。
なんだったっけ……思い出せない。
意識しないことを心がけていたから
颯太さんとの会話が何一つ覚えていない。
覚えているのは、
数学の公式だとか
英単語だとか
勉強のことばかり。
(夕方には帰ってくるよね)
また急遽仕事が入っちゃったんだ。
だから、気にしなくていいよね。
私はいつも通りに勉強をして
颯太さんの帰りを待つ。
………そして、来週。
良い点を取って褒めてもらうんだ。
「よく頑張りましたね」って。
今まで我慢した分
(……早く、触れたいや)
ハグもキスもして。
いっぱい私を……甘やかしてほしい。