執事的な同居人






慌て逃げるように去って行った男。




しゃがんでいた私は腰が抜けたのか立てずにいて、





「………もっと早くタバコ休憩貰えばよかった」





カズさんは震える私の近くにしゃがむ。





「もう、ここに来ちゃダメだよ」


「っ、はいっ…」


「あーゆーイカれてる男山ほどいるからね」





ポロポロと涙を流す私に
カズさんはポケットからハンカチを出して
私に手渡した。




私はそれを受け取るけれど


使うのは、涙を拭うためじゃなくて






「ごめんなさいっ……」





赤くなっているカズさんの右手。



少し傷もみえる。



その部分をそのハンカチでギュッと抑えた。





「……大した事ないよ」


「ごめん、なさいっ……」





私のせいで怪我をさせてしまった。



この綺麗な手に傷をつけてしまった。





「っ……ごめん…なさ……」





罪悪感でいっぱいになっている私に





「…………………」





カズさんは困ったように眉尻を下げて





「ごめん、ちょっと触れるね」


「っ、」





私の手をとって





「歩ける?」





そう言う彼にコクリと頷いた。




カズさんは私の手を引いて

ズンズンとどこかに歩いていく。






(今、わたし…)





カズさんと手を繋いでる。



離さなきゃ。

颯太さんが嫌な気持ちになってしまう。








そう理解は出来ているのに




どうも離せる気になれない──。


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