執事的な同居人






「りんごジュース好き?」





少しして



この場に帰ってきたカズさんは1つのグラスを手に帰ってきた。




右手は涼さんが手当をしたのか包帯を巻いて。





「……はい」


「ん。どーぞ」





渡されたそれを受け取ってペコリと頭を下げる。





…………ああ、そういえば。


颯太さん言ってたっけ。



りんごジュースを飲めば元気になるって。



リンゴジュースにそんな作用が無いことくらい分かってるけど、飲むと今はどこか心が落ち着く感じがした。





そして、思い出す。





「颯太さんっ……」





私はここに颯太さんを探しにきたんだ。





ガタッと椅子から立ち上がって

厨房に繋がる廊下に出ようとした。




けど、そんな私の手を掴んだのはカズさんで。





「颯太さん、ここにはいないよ」





眉尻を下げて困った表情を浮かべてる。





「えっ……でも、家にもいなくて…」


「………聞いてないの?」


「何をですか…?」









「颯太さん、今出張でいないんだよ」





その途端






(あっ……)






思い出せなかったことが





『紀恵さん。俺明日から出張なので』


『2週間ほど家に帰ってこれません』





じわり、じわりと思い出す。





「そ、うだった……」





なんでそんな大切なことを忘れていたんだろう。



どこまで私は勉強のことだけしか考えてなかったんだろう。






なんで


颯太さんの話を


ちゃんと聞けないんだろう──。


< 297 / 422 >

この作品をシェア

pagetop