執事的な同居人
「………………」
黙り込む私に、カズさんは視線を当てつつも椅子に掛けられた上着を手に取る。
「家まで送るよ。」
「………え、いや、でも仕事が…」
「こんな手じゃ外に出せないって言われたんだ」
「今日接客の予定だったし」と、そう言うカズさんの服装はスーツ姿。
「わ、たしのせいだ…」
「違うよ」
私がここに来たからだ。
そう思ってしまうと
再び罪悪感でいっぱいになって、
「ごめんなさっ…」
謝ろうとする私に
「紀恵ちゃん。」
カズさんは
初めて私の名前を呼んで
「帰ろっか」
謝罪の言葉を漏らす私の口に人差し指をあててそう言った。
本当に軽く。一瞬だけ。
「帽子、俺ので我慢してね」
「っ、」
私の目を隠すくらい深く被らされると、今度は手ではなく私の手首を掴む。
「俺、接客やりたくなかったから」
私を優しく引っ張りながら、
「これで良かったんだよ」
裏口から外に出る。
ただ前だけを見るカズさんに、私は後ろからその背中を眺めた。
颯太さんと同じで広い背中。……なんだかとても安心してしまうような。