執事的な同居人
─────────紀恵side
アラームの音に目を覚ます。
「うるさい…」
寝起きで視界がボヤける中
アラームを止めようと手を伸ばすも、
いつもの場所に携帯はない。
どうやら鳴り響くアラームは自分の携帯からではなく、サイドテーブルの上にある置き時計からで。
あれ?ここ私の部屋じゃないな。そう思った途端に思い出す。
「……………あ。」
昨夜の出来事を。
そういえば、私……
今まで無縁だったことを
颯太さんに
「っ!!!!」
ボッ!っと顔から火が出るんじゃないかってくらいに熱くなる身体。颯太さんと一線を超えてしまった。その事実が私の心臓を跳ねさせる。
「颯太さっ………いない」
ああ…そっか。颯太さんは今出張中。なのにわざわざ帰って来てくれたんだもん。きっと朝早くに家を出たんだ。
申し訳ない気持ちはもちろんあるけれど、
『紀恵は俺のなんだよ』
とても愛されているという事実。
その事実は、鏡を見た時に再度気付かされる。
「痕…」
鎖骨の少し上辺り。そこに赤い印が1つ。蚊に刺されたとか、そんな痕じゃないことくらい私にも分かる。きっとこれは颯太さんがつけた痕。
(いつの間につけたんだろう……記憶にないけど、)
なんだろう、ニヤケが止まらない。
鏡に映る私は無意識にも口角が上がっていて
とても気持ち悪い表情を浮かべてた。
颯太さんは朝早くに家を出たにも関わらず、いつも通りに朝食を準備してくれていた。
そして、1枚のメモ。
メモでやり取りなんて懐かしいな。最近じゃ携帯でやり取りしていたから。
『おはようございます。朝食は冷蔵庫にも入れてあるので温め直してから食べてください。』
と、これはいつも通りのメッセージ。
そしてそのメッセージの下には
『それから、身体がダルいようでしたら迷わず学校を休んで。』
私の身体を気にかける言葉が。
それだけで、なぜか、胸がキューーっとした。
敬語で書いてないところとか、身体を気遣ってくれているところとか。たったそんなことだけど、今の私にはキュンキュンしてたまらない。
「あーもう好きっ!!!」
その手紙を軽く顔に押し当てる。きっと今の私もさっきと同様ニヤケてる。
こんなにも人を好きになったのは初めてだ。
(颯太さんが帰ってきたらまた…)
ルールがあることを忘れて
私はまた颯太さんと……なんて。
1度超えてしまうと、もう元には戻れない。
それ以上か、それ同様を求めてしまうんだ。