執事的な同居人
───────────紀恵side
『同居解消』
その言葉が私の頭をいっぱいいっぱいにさせているというのに、
『今日は実家に戻ってきなさい』
お父さんからの突然のその連絡。
昨日の颯太さんといい、お父さんといい
なんだかタイミングが良すぎる気がして
(………まさか)
学校終わり、慌てて家に帰れば
「どういうこと…?」
私の荷物が業者の人により外へと運び込まれている。それは全て私の物で、
「おお紀恵!もう学校終わったのか?」
なぜか、お父さんがいる。
その顔はどこかにこやかに。
「ねえ、まって、どういうこと?なんで私の荷物運んでるの?」
「連絡入れたじゃないか。実家に戻ってきなさいって」
「だ、だからって運び出す必要ある?」
「もうここには必要ないからな」
その途端、ドクンッと心臓が嫌な音をたてた。
「………実家に帰ってこいってこと?」
ニコリと笑うお父さんだけど、
私はもちろん笑えなくて
寧ろ顔が引き攣って
「紀恵にはずっと苦しい思いをさせたな…」
「ま、まって!苦しい思いってなに!?私そんな気持ちになってないし、それに……」
キョロキョロと周りを見渡して
「颯太さんはどこ…っ」
彼の姿を探す。
けれど、どこに目線をあてても彼の姿はない。
「ねえ、颯太さんは!?」
お父さんの腕を掴み、
彼の居場所を聞き出そうとするが
「あいつはいない」
お父さんはにこやかにそう言う。
「紀恵、島崎とはもう会うな」
「な、んで……」
「紀恵には悪影響だ」
その言葉がカチンと頭にきた。
「悪影響!?なにわけわかんないこと言ってんの!!
颯太さんはすごくすごく良い人で!私が落ち込んでいる時は私の好きなご飯を作ってくれて優しく微笑んでくれるの!
テストだってよく頑張ったねって褒めてくれた!!そんな彼だからこそ同居取り消されるのが嫌で勉強頑張ったのに…!」
掴んでいたお父さんの腕を乱雑に離して
「私颯太さんとずっとここに住む!!もう二度と離れたくないの…!だからっ…」
家に戻ろうとする私の腕を引っ張られたかと思えば
「紀恵。言うことを聞きなさい」
「っ………」
今まで見たことの無い表情で、冷たい声でそう言ったお父さんに肩を震わせた。
「ここにいるからそういう荒れた気持ちになるんだ。お前の居場所はここじゃない。」
「嫌っ……」
「ここにはもうないんだ」
「…………っ」
ボロボロと涙を流す私に、
お父さんは眉尻を下げて
「……お前の帰りをお母さんも待ってる。今日は紀恵の好物ばかりを作ってくれてるみたいだぞ!」
笑顔を浮かべているのだけど
好物ばかりでテンションが上がるとか
そんなの、今の私には喜べない。
「…ぅ……っ」
ただだ寂しくて
ツラい。