執事的な同居人
勢いあまって颯太さんに飛びつくと
「わっ」と小さな声が聞こえたのと同時に
バランスを崩したらしい颯太さんはグラリと体制が崩れて、私を守りつつ砂浜に倒れ込んだ。
ドサッと音がすると、小さな砂がふわりと軽く舞う。
「ケホッ…紀恵さん、危ないですよ…」
「だって…!」
……仕方がないじゃん。
やっと同じ気持ちで颯太さんに触れられるんだもん。
こんな幸せな時に
触れたいと思わせてくれるのだって
全部、颯太さんが教えてくれたんだよ?
手をついてガバッと上体を起こす。
(この体制……)
颯太さんの上に跨って、
颯太さんの顔横に手をついて
……颯太さんを押し倒してるみたい。
そんな恥ずかしい体制だというのに
「………ふふっ」
なんだか、もう、笑えちゃう。
なんでだろう……今この時が幸せでたまらないからかな?
そんな私に颯太さんも困ったように微笑むものだから
「ごめんね」
笑いながらも
離れようと再び身体を動かす。が、
「……、…ん?」
手、手が…
颯太さんの腕が
私の腰に回されていて
逃がさない、と言いたげな目。
「どうしました?」
喉の奥で小さく笑った。
「や、あの…立てないというか、」
「そうですね」
「(そうですねって…)」
その端正な面に見惚れるほど美しい
「もう俺にドキドキしてくれないのかな、と思いまして」
意地悪な笑みが刻まれる。
「そ、そんなわけ…!」
めちゃくちゃドキドキしてるってば!!
この近さに
胸が大きく高鳴っているというのに…
なんで伝わっていないのか謎だけど、
颯太さんは未だに意地悪な顔をするから「ウッ…」と小さな声が出た。
「し、てるよ…ずっと」
「本当ですか?それにしては落ち着いてますね」
吐息が触れそうな距離まで顔を近づけて、瞳をのぞきこまれる。
ち、近いっ…!!
離れようにも、腰に回されていた手が今じゃ後頭部にあって。
「俺はこんなにも意識しているというのに」
「っ…!」
「紀恵さんは違うんですね…」
きっとわざとだろうけど、
シュンッと悲しげな顔をされては
「っーーーーしてるってば!!」
少し慌てるように
颯太さんの頬へキスを落とした。
これで、伝わったはず!絶対!!
ムッと唇を尖らせると、
「な、何笑って…」
笑みをかたどった薄い唇が開かれて……
「────たりない。」
今までの冷たさなど微塵も感じさせない甘い笑みが浮かんだ。
「っ、んっ」
柔らかく唇に落とされたキス。
身体が密着したことで伝わる、微かな体温。
(あっ……ドキドキ、してる…)
冷静な表情を見せる颯太さんも、
鼓動が早い。
「紀恵さん……顔、真っ赤です」
「うっるさい…!」
瞳いっぱいに映される、ふふんと浮かべた笑顔が意地悪で、なんだか憎らしい。
それでも
たった一瞬の出来事によって
私の心はいっぱいに満たされたんだ。