執事的な同居人
「違う言い方をすれば、
あなたを誘拐したのと同じですからね」
確かに……そうかも。
だけど、私も同意の上でついて行くのだから
誘拐とは…ちょっと違うんじゃない?
……なんて思うも、
ワガママと思われてしまうのが嫌で
運転を始めた颯太さんには言えず、浮かない顔で外を眺めた。
颯太さんは……私と離れるの寂しくないのかな?
駆け落ち出来るならしたいと言ってくれたから、ちょっとは寂しいと思ってくれてる?
次はいつ会えるのか分からない。
もしかしたらまた何ヶ月も会えないのかもしれない。
そうだとしたら……嫌だな。
「紀恵さん」
名前を呼ばれ、
ゆっくりと視線を颯太さんに当てる。
運転中のため彼は前を見ているのだけど
「駆け落ちは…出来ませんが、
休みの日はこうやってどこかに出掛けましょう」
「っ!う、うんっ…!!行きたい!!!」
分かりやすく上機嫌になった私に
颯太さんは口元を弧にさせる。
「例えば遊園地だとか。紀恵さんよくCMで流れているあの遊園地をジーッと見ていらしたし、行きたかったのでは?」
「そうなの!!一度も行ったことないから気になってて…」
「じゃあ決定ですね」
淡々と決まっていく予定。
「再来週の土曜日空いてますか?」
「空いてるよ!!!」
「ではその日にしましょう」
「でもあそこ…チケット取りにくいよ?」
ちょうどその時、赤信号のため車が止まる。
ずっと前を向いていた瞳に私が映り
「俺を誰だと思ってんの?」
妖しく微笑まれ、くらりとなった。
そっか、この人、完璧なんだった。
けれどそれは表面上だけ。
服選びが苦手で
部屋の中にある服はスーツだらけ。
けれど寝る時はTシャツを着ていることだとか、
出来ない料理は作れるようになるまで
ずっと練習していたこととか、
余裕のない時は口調が荒くなるとか。
……私のことを嫉妬するくらいに好きだとか。
その事実を知っているのは
きっと、私だけだと思う。