執事的な同居人
目元にあった手が離れると
ポツリ、ポツリと
光が輝き出した園内の景色と共に
少しだけ困った表情を浮かべる颯太さんが瞳に映る。
そんな颯太さんの目は
なんだか艶っぽいものへと変わっていた。
「………そろそろ歩けそうですか?」
「えっ、あ、うん…」
この時、
また颯太さんが敬語を使っていたこととか
私が『颯太』って呼び捨て出来ていないこととか。
なんだかもう全部気にならなくて、
「一緒に見たい景色があるんです。」
立ち上がった颯太さんに、そっと手を引かれた。
綺麗な満月が空に浮かぶ時間帯。
太陽の光はもちろん無い今、
園内は暗闇に染まることはなく
色鮮やかに光る物によって、
昼間とはまた違った景色が広がっている。
「…どこに向かってるの?」
喋ると、白い息が出る。
夜になって少し寒くなってきた。
「もう少しで着きますよ」
けれど、繋がれている手は昼間と変わらずあたたかい。
今日一日中、颯太さんは私の歩幅に合わせて歩いてくれた。
今も、ずっと。
「紀恵さん」
「ん?」
「目、閉じてもらっていいですか」
その一言にドクンッと胸が高鳴るも、
颯太さんの目を見ると
きっと、キスではないその指示。
(なんなんだろう…)
怪訝に思いながらも、ゆっくりと目を閉じる。
しっかりと閉じられたそれを確認したらしい颯太さんは、変わらず私の手を引いて歩き始める。
そのスピードは目を閉じている私が怖くならないようにか、とてもゆっくりと。