執事的な同居人







「やばっ!もうこんな時間!」





ピンク色のエプロンを無造作に外し、洗面所の鏡を見て身だしなみを整える。





この1年半でまた少し伸びた髪の毛を緩く巻きながら、この家での思い出を一つ一つ思い返した。






唐突に始まった同居生活に「最悪!」と思っていたあの頃。


学校終わり、家に帰ればいつも誰もいない空間に彼がいるから途轍もなく違和感を感じていたのだけど


彼はそんな私に「おかえりなさい」と優しく声をかけてくれた。


動揺しながらも「ただいま」を言えば、胸の奥で温かいものがじんわりと広がったんだ。



こういうの……悪くないかも、なんて。





同居が始まって間もないにも関わらず、同じベッドで眠ったあの日。


寝ぼけている彼に対して抵抗しても離してくれる気配はなく、たった二日目にして同じベッドで就寝。


ありえない状況に嫌気が差しながらも、抱きしめられると意外にもその空間が心地よくて一瞬で眠りについてしまったの。




そして知ってしまった彼の裏事情。





「俺、2つの仕事をしてるんですよ。」





その2つ目の職業を知ったとき、私は言葉を失った。



ホストなんて……甘い言葉を言っていろんな人を弄んでるんだ。



そんな人に一瞬でもドキッとしてしまった自分が恥ずかしくて、私って男なら誰でもいいのかと思い知らされて……どう接すればいいのか分からなくなった。



けれど。彼の言うホストは私が想像していたようなことではなくて、ホストの中で働く厨房担当だと聞かされた時はモヤモヤとした心がなぜかスッキリしたの。



それがなんなのかはその時はまだ知らず、雨に打たれて高熱を出したあの日から徐々に意識し始めたんだ。





『彼のことを知りたい』




そう思うようになり




そして知る、彼との懐かしの思い出。





幼い頃大好きだった彼。そんな彼が大人になってまた私の目の前に現れた。




あの頃と変わらず優しく接してくれる彼にまた心が惹かれていってー…





「……俺も。紀恵さんの事が好きです」





気持ちが通じ合えたあの日は、人生で1番と言っていいほど幸せな日だった。






けれど幸せはそれに留まらず、





彼と過ごすこと

彼と喋ること

彼と出掛けること

彼と触れ合うこと





その全てが私を幸せいっぱいにさせてくれる。


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