執事的な同居人
離婚後は母さんが不倫相手のところに行こうが誰と共にしようが、俺にとってはどうでもいい。
ただアイツから離れられればそれでいいと思っていたから。
ほとんど野放し状態の俺は素行が悪くなるわけで、学校にはほぼ行かず、朝から夜まで遊び続けた。
今までしたくても出来なかったことが今になってようやく出来るようになったのだから。
………が。
いくら遊ぼうとも、俺の中で満たされない何か。
それが一体なんなのか気づけるわけもなく、毎日モヤモヤと気分が悪いまま生き続けた。
喧嘩しようが、
女とヤろうが、
何をしても満たされない。
そんな中、父さんの方へついて行った麗華からの連絡がより一層俺の気分を悪くさせる。
『今度お父さんと3人でご飯行かない?』
麗華は悪気があって言っているつもりはない。俺と父さんの仲を知っていて敢えてそう言っている。
……そう分かってはいるが、"お父さん"という文字を見ただけで嫌気が差した。
アイツとご飯?ふざけんな。
俺はもうあの人と縁を切ったんだ。
そう心に思うだけで、文字にはしない。
麗華に八つ当たりしたところで何の意味もないのだから。
その鬱憤はいつも喧嘩で晴らしていた。
この日は大粒の雨が降り注いでいて
気を失っているヤツらを見下し、路地裏でタバコを吸った。
この時の年齢は19歳。
まだタバコを吸ってはいけない年齢で、
「若いねぇ」
「…………」
「こんなに暴れちゃってさ」
傘をも持たずに雨に打たれていた俺へ、傘を捧げてくれた人。
「なんだか、昔の俺を見てる様だよ」
「………誰」
ギッと睨んでも、怯む様子は見せず。
「俺さぁ近々この辺りに店を出すつもりなんだよね。そのためには従業員を集めなくてさぁ~」
その人はニコニコと笑みを浮かべて
俺の手からタバコを抜き取り
「行き場がないなら、来るか?」
………これが
涼さんとの出会いで
俺がホスト(厨房)で働くきっかけでもあり
新たな人生が始まった瞬間だった。