執事的な同居人






その体制のまま物語は終盤へ。




ホラー要素は今まで無かったかのようにガラリと雰囲気が変わり、いつの間にか心が惹かれあったらしいヴァンパイアと主人公の熱いシーンが繰り広げられる。





「………………」





その映像をジッと見つめる彼女はどこか落ち着かないという感じ。




触れている部分が徐々に熱くなっているのが分かる。




その様子に俺の中でまた意地悪な心が芽生えてしまったみたいで、





「………んっ、」





紀恵の手の甲を指先でつーっとなぞってみると、たったそれだけなのにくぐもった声を漏らす。





「颯太さっ…」


「なに?」


「あっ…」





もたれていた身体を離そうとするから、逃げないようにと肩を抱くようにして引き寄せる。




チュッと首元にキスをすれば間違いなく感じた声をあげるから、


ちょっとだけ意地悪するつもりだったのに、そのせいで拍車をかける。






「まって、映画まだ途中っ…」


「いいよ観てて」





そう言ったところで集中出来ないだろうけど。




分かっていながらも、彼女にそれを勧める。



「はぁっ…」と色っぽい吐息を吐き、俺にされるがままの紀恵はきっと映画のストーリーなんてもう頭に入っていない。





ちょうど今クライマックスになりつつあるこの映画。



俺は一度観たことがあるから、この先の物語を知ってる。




ヴァンパイアは村人によって傷を負い、血を流し、死の間際にまで追い詰められる。


だが、その死からヴァンパイアを救い出したのが主人公である女性。





『私はもう長くは生きられない。だから、私の血を飲んで…全部飲み尽くして。私を救ってくれたあなたを死なせたくないの。』




このヴァンパイアは血を飲めば回復するという設定らしく、彼女はそのヴァンパイアに何度も自分の血を飲むよう勧めた。




けれど飲み尽くしてしまえば彼女は力尽きてしまう。




愛しているからこそ、その身を捧げる主人公。


愛しているからこそ、頑なに彼女に噛み付こうとしないヴァンパイア。




2人の気持ちはすれ違いを見せるのだけど、





『あなたを愛してる』





ヴァンパイアの心に追い討ちをかけるように





『お願い』




彼女は言う。





『生きて』





カプッ



映像と共に、俺も目の前にある首元へ軽く噛み付けば





「あっ…!」





その映画の主人公と同じ声をあげる。




とても甘く、ギュッと俺の手を握って





「そ、うた…」





俺の名前を呼ぶ。






いつもなら照れて呼びづらそうにするのに、こういう時は構わず呼び捨てで呼んでくるところとか





(煽られている気分になるな…)





俺をその気にさせてしまっても仕方がないと思う。


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