執事的な同居人
映画の中の女性は、ヴァンパイアの名前を呼んでから力尽きる。
同じように、紀恵もどこか力を無くしたみたいだった。
……ああ、愛おしい。
たまらなく愛らしい。
そのヴァンパイアと同様
力の無い紀恵を抱きしめ、
『キミが生まれ変わって新しい人になろうとも、必ず見つけ出す。この身も心も魂まで全て俺のものだ』
その言葉が流れたのと同時に、俺は彼女へキスをする。
そのヴァンパイアは間違いなく主人公の女性に依存している。
この映画を前に見た時は、なんでここまで執着するのかと分からなく感じていた。
女なんてこの世に山ほどいるわけで、たかが1人の女に執着する意味はなんだと。
愛というものが理解出来ずにいた俺だったが
(今なら…分かるな。)
執着する気持ちも
手放したくない気持ちも
今なら分かる。
うなじあたりを掴み、より深くと求めれば、紀恵はくぐもった声を出しながらも懸命に応えてくれる。
彼女の全部が、どうしてこうも愛おしくなるのか。
この綺麗に伸ばされた髪も
柔らかい唇も
声も目も
全てが愛おしい。
夢中になって彼女を求めていれば、映画はエンドロールを迎えていた。
流れている音楽に彼女は聞き耳をたてず、求めるようにして俺の方へ身体を向ける。
俺の首に回される腕。
(そんなことされたら、)
余裕なんてものは一切なくなる。
まあ元からなかったも当然かもしれないが。
「観なくていいの?」
分かってるくせに、と言いたげな目をして首を微かに縦に振る紀恵さん。
「……そう。」
頬に触れ、ゆっくりと近づいていくと、そっと目を閉じる紀恵が可愛くて。
「じゃあ、」と決めたこの後の物語は、お察しの通り。