執事的な同居人
(……、朝か…)
すっと意識が浮上して瞼を持ち上げると、もう朝になっていた。
窓から差し込む日差しに目を細め、ゆっくりと身体を起き上がらせる。
時刻はいつも通りの休日の起床時間。
この時間になるとアラーム無しでも起きられるこの身体。有難いと感じる時もあれば、鬱陶しいと思う時もある。
そしてその鬱陶しいが今のこの時で。
「……………」
隣で眠る彼女は俺に背を向けて眠っているものだから、なんだか寂しい気持ちにもさせられた。
お互い偶然にも同じ時間に目を覚まし、「おはよう」と言い合えることがどれだけ幸せか。
(…ホント、鬱陶しい。)
こーゆーところは完璧じゃなくていいんだって。
まあ俺のワガママにすぎないことなのだが。
隣で眠る彼女へ誘われるように手が伸び、その長くて綺麗な髪を撫でる。
すると紀恵は少し身じろぎをして、気持ちよさそうに眠ったまま顔をほころばせた。
そんな無防備な姿を見せられると触れたい欲に駆られてしまうのが男というもの。
髪に触れていた指先を、耳の裏から首筋に這わせる。
(こんな姿……俺以外には見せんなよ。)
そう願いを込めながら、俺は真正面からぎゅうっとその小さな身体を引き寄せると
「ん…。…そ…たさん…?」
「ああ、ごめん。起こした?」
強引に引き寄せてしまったことによって目を覚ましたらしい紀恵。
申し訳なくなり抱きしめる力を緩めるが、
「あったかい…」
まだ眠そうな紀恵は、ぼんやりとしながら俺の背中に腕を回す。
寝起きにも関わらずギュウ…と俺よりも強い力で抱きしめられると
なにか、胸の奥で温かいものがじんわりと広がっていく感覚。
心地よくて、あたたかくて、幸せで。
紀恵といると時折触れることのあるこの感覚がとても好きだ。
そんな感覚に包まれている中、朝に弱い彼女はスースーと寝息をたててまた寝てしまうのだけど。
(先に起きるのも悪くないか)
柔らかな毛布の感触と、背中に回された紀恵の腕、密着したことにより感じる落ち着いた心音。
全てが心地よく感じ、
身も心も彼女に包まれ
「愛してるよ、紀恵。」
再び夢の中へと俺を導いた。
颯太's story ー完ー