執事的な同居人
「ワインはデリケートな飲み物だから、勢いよく注いではいけない。一定のリズムで静かに注ぐこと。量の目安はグラスで1番膨らんでいる部分のやや下くらいね。」
涼さんはワイングラスを2つ用意すると、
私の前に1つ、
カイの前に1つ用意した。
「あの…私まだ19歳なので飲めません…」
「ああ、これはただのスパークリングワインだよ。ノンアルコールだし飲んでも大丈夫。」
「はあ…」
と言われても…気が進まないけど。
もはやスパークリングワインって何か知らないし…ただの炭酸ってことなのかな。
「注ぐ側も、注がれる側もグラスには手をかけないこと。ワインを注ぐときはワインボトルの口がグラスに触れないよう気を付けて。」
涼さんの教え通りにカイは私のグラスへワインを注いでいく。
慣れているように見えるけれど、カイは1回教えられると覚えられるという才能があって。
「そうそう。上手いね~!」
その出来栄えに涼さんは満面の笑みで褒めていた。
「すぐに出来ちゃうところ、颯太とそっくりだ」
「颯太?」
カイと私はその名前にピクリと反応。
「その人、ここで働いているんですか?」
「主に厨房だけどね!接客にまわってもらったときは颯太のおかげで毎度売上爆上がりなんだよなぁ。てか紀恵ちゃんから聞いてねーの?」
その言葉にチラリと視線を当ててくるものだから、私は逆に逸らしてしまう。
「へぇ…」
「(み、見れない…)」
隠していたわけじゃないけど、
「なら………俺は、その人の3倍は売り上げます。」
颯太さんのことをなぜか敵対視するカイにとっては良い話ではないはず。
「へえ?いいねぇ…そーゆー意気込み嫌いじゃない。」
涼さんは組んでいた脚を下ろし、上半身を前のめりにさせて喉の奥で小さく笑う。
なんだか……今までのふわふわとした雰囲気とは違って、経営者らしい表情を浮かべるものだから
「………ただ、この世界を甘く見るなよ。」
響いた低い声に私自身も身を固くした。