執事的な同居人






「キミは親の負担を減らすために、ここで働きたいと言っていたな。」


「それが理由じゃダメですか?」


「いいや?ここで働きたい理由なんてなんだっていい。お金欲しさに一攫千金を狙ってここで働くやつもいれば、行き場を求めてこの道を選んだやつもいる。

それがどんな理由であろうと、俺は否定しないよ。


………ただ、ホストは実力主義の世界。働いている年数なんて一切関係なし。売れなければ普通に働いた方がよっぽど稼ぐことができる。

努力もせず甘い考えでいるなら上になんて這い上がれやしないし、根気よく続ける覚悟がなければ成功することもない。ただ、時間を無駄にするだけ。

だからこそ俺はここに来る奴ら全員に言っているんだよ。

" 中途半端な気持ちならやめておけ "って。」





涼さんの瞳はカイだけを映し、





「この世界は一夜で全てが変わる。」





遠回しに


お金を稼ぐことを甘く見るな。



そう言っている気がして





「それでも、ここで働きたいと思うか?」





試すように、カイに問う。




涼さんとカイの間に挟まれている私は、少し重い空気感に「(早く帰りたい……)」なんて思ってしまっているけれど、




涼さんの言葉は、関係のない私にも響いていたり。




行きたかった大学に受かったからって、ここが終点ではないということ。


昔から服のコーディネートが好きだった私は、将来はそういう仕事につけたらとずっと考えてた。


だからこそ大学だって、有名なスタイリストさんが通っていた所へ進学したんだ。





今私が立っている場所は、スタート地点。




それがどう転ぶかは自分の努力次第であり、





「……もちろん。母さんの負担を減らせるのなら、俺はどんな事でもしますよ。」





そして、自分の選択次第だということ。






「ははっ!親想いだねぇ。」





さっきまでの少しピリついた空気感が嘘のように、涼さんは再びふわふわとした雰囲気を醸し出す。





「じゃあキミがここのNo.1ホストになれるよう、これからはもっと厳しく教えていくよ。覚えることはまだまだあるからね~。」


「余裕ですよ。俺、1日あれば全部覚えられるし」





カイのその一言に涼さんはまたしても大きく口を開けて笑う。





「とことん颯太に似てるよなぁ~」


「(全然似てないし…)」





心の中でそう否定をして、ソファーの背もたれに背中を預ける。



颯太さんはナルシストじゃないし、もっと大人だし。





(あっ、でも…)





自信があるところはちょっと似てるかも。


< 393 / 422 >

この作品をシェア

pagetop