執事的な同居人
「キミは親の負担を減らすために、ここで働きたいと言っていたな。」
「それが理由じゃダメですか?」
「いいや?ここで働きたい理由なんてなんだっていい。お金欲しさに一攫千金を狙ってここで働くやつもいれば、行き場を求めてこの道を選んだやつもいる。
それがどんな理由であろうと、俺は否定しないよ。
………ただ、ホストは実力主義の世界。働いている年数なんて一切関係なし。売れなければ普通に働いた方がよっぽど稼ぐことができる。
努力もせず甘い考えでいるなら上になんて這い上がれやしないし、根気よく続ける覚悟がなければ成功することもない。ただ、時間を無駄にするだけ。
だからこそ俺はここに来る奴ら全員に言っているんだよ。
" 中途半端な気持ちならやめておけ "って。」
涼さんの瞳はカイだけを映し、
「この世界は一夜で全てが変わる。」
遠回しに
お金を稼ぐことを甘く見るな。
そう言っている気がして
「それでも、ここで働きたいと思うか?」
試すように、カイに問う。
涼さんとカイの間に挟まれている私は、少し重い空気感に「(早く帰りたい……)」なんて思ってしまっているけれど、
涼さんの言葉は、関係のない私にも響いていたり。
行きたかった大学に受かったからって、ここが終点ではないということ。
昔から服のコーディネートが好きだった私は、将来はそういう仕事につけたらとずっと考えてた。
だからこそ大学だって、有名なスタイリストさんが通っていた所へ進学したんだ。
今私が立っている場所は、スタート地点。
それがどう転ぶかは自分の努力次第であり、
「……もちろん。母さんの負担を減らせるのなら、俺はどんな事でもしますよ。」
そして、自分の選択次第だということ。
「ははっ!親想いだねぇ。」
さっきまでの少しピリついた空気感が嘘のように、涼さんは再びふわふわとした雰囲気を醸し出す。
「じゃあキミがここのNo.1ホストになれるよう、これからはもっと厳しく教えていくよ。覚えることはまだまだあるからね~。」
「余裕ですよ。俺、1日あれば全部覚えられるし」
カイのその一言に涼さんはまたしても大きく口を開けて笑う。
「とことん颯太に似てるよなぁ~」
「(全然似てないし…)」
心の中でそう否定をして、ソファーの背もたれに背中を預ける。
颯太さんはナルシストじゃないし、もっと大人だし。
(あっ、でも…)
自信があるところはちょっと似てるかも。