執事的な同居人
「えっと…」
やばいと焦り、自然と後ずさる。
けれど後ろは壁。
ニゲラレナイ。
(こーゆーこと、前にもあったような…)
なんて。まだ考えられる余裕をみせていた私も
「あっ…」
颯太さんに顎を掴み引き寄せられると、
一瞬にして頭の中は真っ白に。
そして耳元に唇を寄せて────
「今日も、あなたから似つかわしくない匂いがする。」
颯太さんの声と耳に当たる吐息が、背筋に甘い痺れを走らせた。
「に、匂い…?」
「ええ。あのホストクラブ独特の匂い」
言われて急ぐように服を嗅いでみるけど、もはやその行動があそこに行ったことを知らせているような。
(気づかなかった…)
その事実にも気づかず、匂いにも気づかず。
(そういえば、颯太さんはいつも匂いを消して帰ってくるんだっけ…)
過去にそんなことを言っていた気がする…。
確かにあの場所はなんだか独特な香りがした。
タバコの匂いとか、そんなんじゃなくて。甘いような…そうであってもさっぱりとしていて、ちょっとお花の匂いでもあるような……
数日間も通っていたのだから、あの空間に慣れていたのか匂いなんて気にしていなかった。
内緒でカズさんに会いに行った時。確かあの時もタバコの匂いがしたからバレたんだっけ…。