執事的な同居人
「…っ、…紀恵?」
颯太さんのそばに寄り、後ろから抱きついた。
勢い余って飛びつくように抱きついちゃったからか、倒れそうになった身体をテーブルに手をついて支える彼。
「……もっと、怒ってよ…」
そんな彼に向かってポツリと呟けば、「…は?」と普段の声に驚きが含んだような声がおりてきた。
何もおかしなことなんて言ってない。
叱ってくれると大切にされてるんだって思えるし、嫉妬してくれると愛されてるなって感じられるんだもん。
だからこそ、
もっと叱ってほしいし
「あそこにはもう行くなって、怒ってほしい…」
ワガママだと思われているかもしれない。
こんな私にまた呆れるかもしれない。
そう分かってはいるけど、
構わずギュッと強く抱きしめる。
颯太さんは本当に良い香りがするんだ。
違う匂いに染まっている私とは違い、
離れ難くなるような、そんな香りが。
「あぁもう……限界。」
溜め息混じりに聞こえたその言葉。
お腹に回していた腕を少し荒く引き離されては
ああ、やっぱり呆れられたんだと。
心臓が嫌な音を鳴らし始めた─────瞬間。
「颯太さ────んっ、!」
腕を引かれ、強引ながらも私を引き寄せると、
真正面から息が詰まるほど強く抱きしめられて
颯太さんの広い胸の中に、
私の身体がギュッと押し当てられた。
ギューっと強く。けれども心地好く。
好きな人の香りでいっぱいになる。