執事的な同居人




─────────────────




「紀恵」

「………、…ん?」

「アイス、溶けてるよ。」

「わっ!?ほんとだ…!!」





カップの中でジワジワと溶けだしているそれ。



良かった……まだ全部は溶けてないみたい。





「どうした?ボーッとして。」





ソファーに横並びで座っている私と颯太さん。



隣からジッと視線を感じるも、視線は颯太さんが買ってきてくれたアイスに向ける。





「いや……」





友達とあの話をした週の日曜日。


今日は仕事がお休みな颯太さんとお家でのんびりと過ごしている。




「アイス食べたいな~」と呟いてた私のためにか、昨日の夜、仕事終わりにちょっと高そうなアイスを買ってきてくれたみたい。



そして今日の朝そのアイスが冷蔵庫に入っているのを見て「わぁーい!アイスだ!!」なんて喜んでいたのも束の間。




ずっと、私の中で引っかかっているもの。




そのことを考え始めてしまうと


ずっと食べたかったアイスが目の前にあっても


颯太さんが近くにいたとしても


上の空に。





「……なんでもない。」

「………………」

「(見られてる…)」





怪しまれて当然。



だって颯太さんには私の嘘が通用しないんだもん。



そう分かってはいるけど…素直にもなれない私。




小さな溜め息が聞こえて恐る恐ると颯太さんを見る。





「何に悩んでいるのか分からないけど、まずは食べることを優先したら?」

「んっ!」





不意にスプーンを軽く口に入れられると、



口の中に広がるのは、私が食べているストロベリー味のアイスではなくて、颯太さんが食べていたバニラアイスの味。





「美味しい?」

「っっ…」





コクコクと何度も頷く。




私のその反応に颯太さんは「ほんと、幸せそうに食べるよな」って、優しい表情で笑った。

< 403 / 422 >

この作品をシェア

pagetop