執事的な同居人
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「紀恵」
「………、…ん?」
「アイス、溶けてるよ。」
「わっ!?ほんとだ…!!」
カップの中でジワジワと溶けだしているそれ。
良かった……まだ全部は溶けてないみたい。
「どうした?ボーッとして。」
ソファーに横並びで座っている私と颯太さん。
隣からジッと視線を感じるも、視線は颯太さんが買ってきてくれたアイスに向ける。
「いや……」
友達とあの話をした週の日曜日。
今日は仕事がお休みな颯太さんとお家でのんびりと過ごしている。
「アイス食べたいな~」と呟いてた私のためにか、昨日の夜、仕事終わりにちょっと高そうなアイスを買ってきてくれたみたい。
そして今日の朝そのアイスが冷蔵庫に入っているのを見て「わぁーい!アイスだ!!」なんて喜んでいたのも束の間。
ずっと、私の中で引っかかっているもの。
そのことを考え始めてしまうと
ずっと食べたかったアイスが目の前にあっても
颯太さんが近くにいたとしても
上の空に。
「……なんでもない。」
「………………」
「(見られてる…)」
怪しまれて当然。
だって颯太さんには私の嘘が通用しないんだもん。
そう分かってはいるけど…素直にもなれない私。
小さな溜め息が聞こえて恐る恐ると颯太さんを見る。
「何に悩んでいるのか分からないけど、まずは食べることを優先したら?」
「んっ!」
不意にスプーンを軽く口に入れられると、
口の中に広がるのは、私が食べているストロベリー味のアイスではなくて、颯太さんが食べていたバニラアイスの味。
「美味しい?」
「っっ…」
コクコクと何度も頷く。
私のその反応に颯太さんは「ほんと、幸せそうに食べるよな」って、優しい表情で笑った。