あの日に交わした約束は、思い出の場所で。
退場して書道部のテントに行くと、すでに彩月がいた。

「奈央、おつかれさん」

「ありがとう彩月。でも残念ながら、大したことはしてないから全然疲れてないんだ」

「まあまあ。そんなこと言わないで少し休みな」

自分の隣のパイプ椅子をトントンとたたいた。どんなときでも笑顔で優しい彩月。

プログラム表を見ている彩月の隣に座って、私もポケットからそれを取り出した。

「あっ次、新種目の借り物競争だって。どんなお題が書かれてるんだろうね」

……そっか。彩月は借り物競争に遥が出ることを知らないんだ。

「……彩月」

「ん?」

彩月がプログラム表から目を離して私を見た。

相変わらず、くりっとした丸い目も、上向きの長いまつ毛も細い鼻も白い肌も、羨ましい限りだ。

こんなふうに見つめられたら、私が男に生まれてたら確実に好きになってたよ。

「……借り物競争さ、伊南くん出るみたいだよ」

誰かが遥にときめいてる姿なんて見たくない。だから本当は教えたくないんだけど、それでも報告したのは彩月だったからだよ。

「えっそうなの!それは見ものですね」

急に嬉しそうになった彩月は、一段と目が輝いているように見えた。

私はそんな彩月の横顔を見ていた。


彩月は、遥とどういう関係になることを望んでいるんだろう。

ただ女性が人気俳優やアイドルを「かっこいい」って言うのと同じような感情なのかな。

それとも、願わくば遥と付き合いたいとか思ってるのかな。


……どっちにしても、私には関係ないことだよね。

彩月がどんな関係を望もうと、私が口出しできることじゃない。
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