あの日に交わした約束は、思い出の場所で。
そんなことを考えていたから、借り物競争が始まっていたことにすら気がつかなかった。


「奈央!伊南くん今お題引いたよ!」

私の肩をバシバシたたいて彩月はやけに楽しそうだった。

「ほんとだね。どんなお題が入ってるんだろう?」

遥が一番で箱から紙を取るところが見えた。

「……なんか、伊南くん険しい顔してない?」

「たしかに。そういうふうにも見えるね」

困ったような、戸惑ったような表情にも見える。

昔からいつだって涼しい顔をしてる遥があんな顔するなんてある意味レアだ。


……というか、そんなに難しいお題が入ってるの?

新種目恐ろしすぎ……出なくてよかった。

「……ねぇ奈央、伊南くんにこっちのほう来てない?」

「えっ?……あっほんとだ。なんだろう。放送席のマイクとか?それとも書道部の筆とかかな?」

こちらのテントに走ってくる遥が見えた。それも全力で駆けていた。

遥の走りには迷いが感じられない。きっとこの辺にしかないものなんだ。

「すずりか筆か文鎮か。あっ、それとも墨?いや下敷きの可能性もあるな……」

「……彩月、準備するのはまだ早いよ」

「えっあ、そうか。早とちりしすぎちゃった」

まだ書道部のものって決まったわけじゃないのに、すぐに渡せるように色々と準備している彩月が可愛かった。
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