あの日に交わした約束は、思い出の場所で。
一瞬の出来事だった。早すぎてなにが起きたのか理解するのには時間がかかった。

「奈央ちょっと来て!」

遥は書道部のテントに入ってきてそう言うと、私の答えを聞くこともなく、腕を掴んで走り出した。

「はっ?ちょっ遥、なにしてんの!」

「なにって見ればわかるだろ。奈央を借りて走ってんだよ」

「はぁ?意味わかんないし。もう、遥どんなお題引いたのよ!」

遥は私の腕を強く掴んで離すことなく、ただ全力で走っていた。

もう、なんなのよ遥……

女子の歓声が聞こえる。いや、歓声といういいものじゃないかもしれない。

彼女のいない遥が地味な私の手を引いて全校生徒の前を走っている。

こんな映画のワンシーンのようなことが実際にあっていいのだろうか。

なによりも、この光景を見た人に私はどれだけ妬まれるかわからない。

でももう、ここまできてしまったら周りを気にしたってしょうがないと思った。

「ねえ遥!私の話聞いてん…『そんなのは後でいいから!とりあえず今は全力で走って!一応競ってるんだから!』」

そうだ。遥は昔から勝負事に熱いタイプだったんだ。いつも勝ち負けには異様にこだわってた。

それがどんなにくだらないことだとしても。

……そこは今でも変わってないんだね。こんな状況なのに、なんか可笑しかった。
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