あの日に交わした約束は、思い出の場所で。
遥が私を全力で引っ張って走ってくれた甲斐あってか、見事一位でゴールできた。

遥が『借りてきました』と言ってゼッケンを着た人にお題の紙を渡したとき、『お似合いですね』ってにっこり笑ってくれたのが、今でも頭に残っている。

「お似合い」ってどういうこと……?


『1』と書いてある旗を持った人のところに二人で体育座りして並ぶ。

とっくにゴールしていたのに、そこに座り終えるまで、遥は私の腕を離さなかった。

……それ自体に深い意味なんてないのに、そんな些細なことにさえ胸が高鳴っていた。

かなり強く掴まれていたせいか、離された今でも熱を帯びていて、赤く跡が残っている。


……こんなの、小学生のとき以来だ。たしか近所の犬に追いかけられたとき、遥が私を引っ張って走ってくれた。

でもあの頃とは違った。遥は細身だけど、手ゴツゴツした感じとか浮き出た血管を見て、男の人なんだなぁと思った。

昔からは想像もつかないほど、遥は確実に大人になっていた。もうあのときの男の子じゃない。

「はぁ、疲れた……」

久しぶりに全力で走って、数分経った今でも息が上がっている。

「お疲れ、奈央」

疲れた顔一つせず、他人事のように肩にポンと手が置かれた。

「お疲れじゃないよもう!私が運動音痴なこと知ってるでしょ?どういうつもりか知らないけど、こんなに全力で走らせないでよ」

遥は私の顔をじっと見て、一言言った。

「奈央、なんか老けたな」

「遥が無理に走らせるからでしょ!もうほんっと信じられないんだから!」

「冗談だよ。大きな声出すなって」

遥は私をからかって、昔みたいに楽しそうに笑ってた。

「もう、死ぬかと思ったよ」

私は疲労からか、体育座りをした膝に頭をうずめた。

「奈央のおかげで一位になれた。ありがとな」

あの頃とは違う大きな手が私の頭をなでてくれた。

……遥。無自覚だろうけど、それはずるいよ。

女の子はみんな、頭を触られるのに弱いんだから。

「……ばか遥」

遥に届かないくらい小さい声でそうつぶやいた。
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