あの日に交わした約束は、思い出の場所で。
本当の気持ち
夏休みは忙しかった。

予備校の夏期講習を第一に優先していたけれど、その合間に部活へ行って文化祭に展示する作品を完成させたり、文化祭実行委員での打ち合わせや準備に参加したり。


遊園地へ行って以来、微妙な空気になってしまった結人くんとは、あれから連絡すらも取っていない。

言い訳をするのなら、別にケンカをしたわけではないのだから、別段向き合う必要はないのでは、とも思っていた。

だから私は、時間がないのを理由に結人くんとかかわるのを避けていた。

私は大切なことを先延ばしにしてしまう癖があるようだ。


学校が始まればいつでも会えるから、また普通に話せる。元通りの関係になる。

そんな容易な考えでいた。


八月下旬。夏休みもあと一週間で終わろうとしていた。そんな最中、部活中に彩月からある報告を受けた。

「奈央、この前の遊園地では色々ありがとね」

「全然いいよ。どう?あのあと遥となにか進展あった?」

遊園地に行ってからすでに一ヶ月ほどが経って、二人があれからどうなったのか、ずっと気にはなっていた。

でも、どうしても自分から聞く気にはなれなくて。


「実は私、伊南くんと付き合うことになったんだ」


……こんな日が、いつか来るのかもしれないと予想はしてた。

というより、こうなることを私は望んでた。

こんなに喜ばしいことは他にない。はずなのに……

「……そっか。よかったね。二人ともお似合いだもん」

私はうまく笑えなくて、無理に口角を上げて目を細めた。

心から祝福してあげることが、できそうになかった。


「うん。私から告白したんだ。絶対フラれると思ってたのに、なんで遥はOKしてくれたんだろう?」

「遥」と彩月は言った。たぶん遥も「彩月」って呼んでるんだと思う。

人気者の遥と下の名前で呼び合えるのは、幼なじみの特権だと思ってた。

でもそれも、もう終わりにした方がいいのかもしれない。

「とにかく、奈央が協力してくれたおかげだよ。ありがとう」

彩月の幸せオーラ溢れる微笑みに、私は笑顔で話を続けることができなかった。

ただ、彩月は幸せそうに笑ってた。

だから、これでよかったんだ。
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