あの日に交わした約束は、思い出の場所で。
「奈央。体育祭の借り物競争、伊南の引いたお題は『昔からの知り合い』じゃない」

頭の中が混乱して、もう何も考えたくなかった。


「『大切な人』だよ 」

「……嘘だよ。そんなわけない」

今さら、やめてよ……

「嘘じゃない。あのお題は、体育祭委員のみんなで作ったんだ。『昔からの知り合い』なんて紙、入ってなかった」


……遥は、どんな気持ちで私を見つけて、どんな気持ちで嘘を言ったんだろう。

「大切な人なら、別に奈央じゃなくても友達でも連れて行けばよかった。でも伊南は、真っ先に迷わず奈央のところに行った」


——掴まれた腕、ゴールした後の笑顔、お題を聞いたときの困った顔。

それから、お題の書かれた紙を渡したとき、ゼッケンを着た人に『お似合いですね』と言われたときのことまで。

あのときの情景を、事細かに昨日のことのように思い出すことができた。


「これでも奈央は、俺の隣にいるって言う?」

「……遥は今、彩月と付き合ってるんだよ」

「奈央は、伊南の気持ち考えたことある?」

この言葉、前にも言われた気がする。


「自分がいいと思ってることが、相手にとってもいいとは限らないんじゃない?」


……遥の気持ち。

私は一度だって、遥の気持ちを知ろうとしたことあったかな。
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