あの日に交わした約束は、思い出の場所で。
白い世界。記憶を呼び起こす嗅いだことのある匂い。感じたことのある感覚。

案の定保健室にいた。


高校生活で二回も保健室に運ばれるなんて、私ってどれだけついてないの。いや、こういうのは自己管理ができてないって言うのか。

それにしても、クーラーが効いていて心地がいい。

ふと人の気配を感じて顔を横に向けた。


遥がいた。

体をゆっくり起こす。目と目が合ったけど、すぐにそらして下を向いた。

「まだ寝てろよ」

「……遥、なんでいるの?」

いつもみたいに遥の目をまっすぐ見ることができない。

「奈央、具合は?」

『私は遥が好き』そう自分の気持ちを認めてしまうと、途端に接し方がわからなくなる。

普通じゃいられなくなる。


「まだ少し、頭が痛いかも」

顔も見ずにそう答えたから、そっけなく聞こえたかもしれない。

……何してるんだ、私。

「そっか、無理しないで休め。軽い脱水症状だって」

「……こんなこと、前にもあったね」

——あれはたしか、三月の球技大会のときだ。

「奈央は人に心配をかけさせる天才だな」

「……遥がここまで?」

「外の自販機行くのに歩いてたら人が集まってて、行ってみたら奈央が倒れてた」

「また遥に助けられたね。……昔から、ピンチのときにはいつも隣にいてくれる。遥は王子様みたいだね」

「勘弁しろよなー。奈央の王子は大野だろ?今度こういうことがあったら、彼氏の大野に助けてもらえよ」

それを今言うか。……タイミング悪いなぁ。

私はうまい返しが見つからなくて苦笑いをした。
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