アンドロイド・ニューワールド
意気揚々と、車椅子を押し出そうとしたところ。

「あの、久露花さん」

と、奏さんに呼び止められました。

が、私は構わず車椅子を押し続けました。

「下の名前で呼んでください。でなければ止まりません」

「わ、分かった。る、瑠璃華さん」

「はい、何でしょう」

と、私は立ち止まって言いました。

友達と、下の名前で呼び合う…。

とても新鮮な体験ですね。

「その…。これから、東棟のエレベーターまで、一緒に行こうとしてくれてるんだよね?」

「?勿論です」

だって、西棟のエレベーターは故障しているのでしょう?

あ、それとも。

「分かりました。では階段で運搬を…」

「しなくて良いから。運搬はしなくて良いから。そういう意味じゃない」

と、奏さんは言いました。

とても慌てた様子です。

何か問題でもあるのでしょうか。

「では、やはり東棟のエレベーターまで向かうしかありません」

「うん、俺は勝手に、エレベーターで一人で行くから…。瑠璃華さんは、先に階段で理科室に行くと良いよ」

と、奏さんは言いました。

「一緒に来てくれる、その気持ちは嬉しいんだけど…。でも俺と一緒に来たら、瑠璃華さんまで遅刻するから…」

「…」

「だから、瑠璃華さんは先に行って。俺は一人で行くから」

と、奏さんは言いました。

私は、しばし考え込み。

そして、結論を出しました。

「…残念ながら、その申し出は却下します」

「え?」

「では行きましょうか」

と、私は車椅子のハンドルを握り直しながら言いました。

向かうは、東棟のエレベーターです。

「ちょ、何で?何で却下?」

「友達は友達を捨てません。あなたの屍を越えて、私一人だけ助かった命に、価値などないと判断しました。それならば私はあなたの友として、共に戦うことを選びます。例え、どれほど勝ち目のない戦いであっても」

「…」

「そうでなければ、私はあなたの屍を振り返って、きっと後悔することでしょう。死なば諸共。屍になるのは二人です。共に屍になりましょう」

と、私は言いました。

すると。

「…そんな、生きるか死ぬかの話してたっけ…」

と、奏さんは諦めたような、乾いた笑顔でそう言いました。

どうやら降参してくれたようで、それ以降は何も言わず、私の同伴を許してくれました。
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