アンドロイド・ニューワールド
これには、言われた化学教師だけでなく。

それを聞いていた、奏さん含め。

クラスメイト全員が、ポカンとしていました。

この場にいる、およそ40名の人間を、一撃にして唖然とさせるとは。

私も、なかなか才能がありますね。

「この学園は、算数を習っていない教師が多いようですね」

と、私は言いました。

奇数と偶数の区別がつかない、あの体育教師と言い。

時間の計算が出来ない、この化学教師と言い。

「掃除の時間が終わって、五時間目の授業が始まるまでのインターバルは10分。この間に、車椅子に乗っている奏さんが、授業に間に合うよう理科室まで移動するのは、非常に困難です。そんなことも分かりませんか?化学教師なら、常に考え、疑うのが仕事でしょうに、あなたには想像力の欠如が見られるようです」

「なっ…」

と、化学教師は愕然として言いました。

「掃除時間が終わって、授業の準備をするのに2分。教室のある西棟から、エレベーターが稼働している東棟に移動するまでに3分。エレベーター待ちに最短で1分から2分。エレベーターがすぐに来てくれれば良いですが、他に利用者がいた場合は5分待ちのときもあります。そしてエレベーターで二階まで移動し、西棟の端にあるこの教室に辿り着くまでには、更に5分。ここまで計算は出来ますか?」

と、私は説明しました。

具体的な数字を出した、非常に分かりやすい説明です。

これなら、算数の授業を習ったことがない化学教師にも、理解可能でしょう。

「この時点で、既に約10分が経過しています。そしてこの計算は、1秒たりとも遅れず掃除が時間内に終わり、かつ道中で誰ともすれ違わず、最短ルートを通ってきたと仮定しての時間です」

と、私は言いました。

掃除時間は、たまに数分オーバーしてしまうこともあります。

そんなときは、授業開始までのインターバルは10分もありません。8分になったり、7分になることもあります。

そして常に、西棟東棟問わず、同じく教室移動に慌ただしい生徒達が行き来しています。

急ぎたくても、どうしても横幅のある車椅子で移動するには、迅速に移動すると言っても限度があります。

ダッシュで車椅子を押そうものなら、交通事故が起きかねません。

乗っている奏さんにも、負担がかかるでしょうし。

従って、どうしても相応の時間がかかってしまいます。

それくらいの想像は出来ないのでしょうか。

「大体、西棟のエレベーターが故障しているのを、いつまでも直さずに放置しているのは、あなた方学園側の問題でしょう?車椅子の生徒の入学を受け入れたのなら、それ相応の責任を取るべきです」

と、私は言いました。

入学時点で、奏さんが車椅子に乗らなければ生活出来ないことは、分かっていたはずです。

そして、奏さんの話によれば、彼が学園に入学する以前から、エレベーターは故障したまま放置していたそうですね。

車椅子の生徒を受け入れる、と学園が決めたのなら、車椅子でも支障なく学園生活が送れるよう、最低限の設備が整っていなければなりません。

百歩譲って、東棟にもエレベーターはあるから、そちらを使えば車椅子の生徒でも入学可能と判断したのなら。

多少遅刻したところで、目を瞑るべきです。

それを「重役出勤」などと揶揄して、皆の前で辱めるとは。

身勝手極まりない話です。
< 105 / 345 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop