アンドロイド・ニューワールド
第8章
私と奏さんは、星屑学園から歩いて15分くらいのところにある、小さな喫茶店に入りました。

紅茶が美味しいというだけあって、店内は芳ばしい紅茶の香りが充満していました。

「いらっしゃいませ。2名様ですね、こちらにどうぞ」

と、店員さんは言いました。

とても愛想の良い店員さんです。

その店員さんに案内され、私と奏さんは二人用のテーブルに向かいました。

そこには、向かい合うようにして二脚の椅子が置いてありましたが。

店員さんは、そのうちの一脚をサッと除けて、別のテーブルに持っていきました。

奏さんが車椅子に乗っているのを見て、そうしてくれたのでしょう。

なかなか気の利く店員さんです。

「良い雰囲気の店ですね」

と、私は言いました。

「うん。だから俺も気に入ってるんだ」

と、奏さんは答えました。

奏さんは、このお店の常連客なのでしょうか。

「たまにね、車椅子で入ると、鬱陶しがられる店もあるから…。その点ここは、全然気にせず入れてもらえて…」

と、奏さんは小さな声で、呟くように言いました。

「…?近頃の店なら、大抵の場所はバリアフリーでは?」

と、私は聞きました。

すると。

「そうなんだけど、実際に車椅子の客が来ると、対応に困る店が結構あるんだよ。店員さんも、慣れてないからだろうけど…。ソファ席には座れないし、店が狭いと、他の客とすれ違うだけでも、迷惑かけるし…」

「…そうだったんですか」

と、私は答えました。

バリアフリーを銘打っていながらも、実際車椅子生活をしてみないと、分からない苦労があるんですね。

口にしないだけで、様々な大変な思いを経験されてきたものと推測します。

「それは大変でしたね」

「あ、いや…。もう慣れてるから、大丈夫…。湿っぽい話してごめん。それより、注文決めようよ」

と、奏さんはテーブルに立てかけられたメニュー表を、こちらに差し出しました。

言うまでもないですが、私はこの店に来るのは初めてです。

よって、どんなメニューがあるのかを知りません。

こんなに紅茶の匂いがするのですから、きっと紅茶はメニューに載っているのでしょう。

「好きなもの頼んで。俺が奢るから」

「?何故奏さんが奢るのですか?」

と、私は尋ねました。

私は、私の分は自分で支払うつもりだったのですが。

しかし。

「今回の試験、瑠璃華さんのお陰で良い点数取れそうだから。そのお礼に」

「私は、何も見返りを求めて、勉強会を開いた訳ではありません」

「知ってる。でも俺がそうしたいから、そうするだけ。形だけでもお礼させて」

「…分かりました」

と、私は答えました。

別に何も、義理を感じる必要はないはずなのに。

とはいえ、奏さんがそうしたいと言っているのに、頑なにそれを拒むのも失礼です。

従って、私は奏さんの言葉に甘え。

ここは、ご馳走してもらうことにしました。

そういえば、人に何かを奢ってもらうのは、これが初めてですね。
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