アンドロイド・ニューワールド
先程の店員さんに注文し、およそ15分後に運ばれてきたのは、奏さんおすすめのメニュー。

このお店のオリジナルブレンドティーと、こんがりと良い焼き色のついた、柔らかそうなフレンチトーストのセットです。

とても芳醇な、良い香りです。

「このお店で、一番美味しいのがこれなんだよ」

と、奏さんはフレンチトーストを指差して言いました。

紅茶のお店なのに、一番は紅茶じゃないんですか。

さては奏さん、あなたも甘党ですね。

久露花局長と同じです。

まぁ、毎時間ごとにチョコレートを口にしなければ、糖分不足で頭が働かなくなる局長と比べれば、奏さんは相当軽症です。

「美味しいから、食べてみて」

「分かりました。では頂きます」

と、私は言いました、

同時に、フレンチトーストを一切れ、ナイフとフォークを使って切り分け。
 
それをフォークに突き刺して、口の中に放り込みました。

「…ふむ…ふむ…」

「…どう?美味しい?」

と、奏さんは恐る恐る尋ねました。

「特に美味しくはないですね」とか答えたら、凄くショックを受けそうですね。

しかし、その心配は必要ありません。

私の味蕾は、主に久露花局長によって、甘味を感じる部分だけは、異常に鍛えられています。

つまり、甘いものに関してだけ言えば、とても舌が肥えている、ということですね。

それでも、私のそんな舌を持ってしても。

これは、なかなかの味です。

端的に言うなれば。

「ふむ…美味しいですね」

「本当?良かったぁ」

と、奏さんは胸を撫で下ろしたように言いました。

鍛え抜かれた私の味蕾を凌駕するフレンチトーストですね、これは。

「瑠璃華さんって、何食べても反応薄いから…」

と、奏さんは言いました。

私に心はありませんが、心外です。

「確かに私は嗜好品としてしか食事をしませんが、味覚はあるので、それが美味であるか美味でないかの区別くらいはつきます」

「え、そう?」

「はい。特に甘味については、局長のもとで散々鍛えられたので、自信があります。フレンチトーストというこの食べ物も、以前に食べた記憶があります」

「あ、食べたことあったんだ」

「はい。局長が勧めてきたので」

と、私は言いました。

とはいえ、局長が以前持ってきたフレンチトーストは。

今回のように、粉砂糖ではなくココアパウダーが万遍なく振り掛けられ。

かつ、上に乗っているアイスクリームも、チョコアイスでした。

全ては、局長の異常なチョコレート好きによるものです。

黄色の食べ物の上に茶色が乗っていて、何だかあまり色合いが良くない食べ物だ、と思っていましたが。

こうして、白い粉砂糖に白いバニラアイスを乗せると、色合いも良くなりますね。

「局長…局長か。局長って言うのは…要するに、瑠璃華さんのご両親のこと?」

と、奏さんは一口紅茶を啜って、そう尋ねました。

…両親?

「…いえ。私は人間では無いので、人間の胎内から生み出された生き物ではありません。つまり、一般的に皆さんが思うような、腹を痛めて自分を産んだ『親』という存在は、私にはいません」

「う、うん」

「しかし…。私を製造したのは、他でもない『Neo Sanctus Floralia』第4局の局長、久露花局長です。そういう意味では、久露花局長は私の『親』に当たる人物なのかもしれませんね」

と、私は言いました。

…自分で言っておいて何ですが、あの久露花局長が自分の「親」だと思うと、何だかモヤモヤしますね。

一般的に、子は親の性質を遺伝すると言います。

私は、局長の聡明なところは受け継ぎたいと思っていますが。

あの極度な甘党と、たまに物凄く間が抜けている点は、受け継ぎたくありません。

しかし仕方がありません。子は親を選べないのですから。
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