アンドロイド・ニューワールド
一般的に、現在の人間の平均寿命は、80歳かそこらです。

そして奏さんが今、高校一年生で16歳と仮定して。

その両親となると、いくら高齢出産だったとしても、80歳を越えることはありません。

それはつまり…。

「…事故ですか?」

「そうだよ。この足の事故…」

と、奏さんは自分の足を指差して言いました。

何もない足を指差して。

そうだと思いました。

片親なら、まだ片方が病死されたのか、という推測出来ますが。

そのような若い歳で、二人揃って病気で亡くなりました、とは考えにくいでしょう。

勿論、その可能性もなくはないでしょうが、確率としては低い。

そして何より、奏さんには過去、「事故で両足を無くした」という経験があります。

その事故が、奏さんだけのものであったのだと、何故勝手に思い込んでいたのでしょうか。

勘違いも甚だしいです。

「一緒に巻き込まれて…。母は即死で、父は…二日くらいは持ちこたえたらしいんだけど…。俺が目を覚ます前に亡くなった」

「…そうでしたか」

と、私は言いました。

何だか、掛ける言葉が見つかりませんね。

こういうとき、こういう話をするときは、人間はとても繊細で、ナイーブになると言います。

私には心がないので、その感覚は分かりませんが。

しかし不用意な発言をして、友達を傷つけたくはありません。

折角芽生えた友情に、亀裂が入ることにもなりかねないからです。

「…では、今奏さんはどちらに住まわれているのですか?」

と、私は尋ねました。

過去のことを聞くより、今のことを聞いた方がマシだと思ったからです。

「一応18歳未満だから、施設に…」

と、奏さんは答えました。

成程。児童養護施設という場所ですね。

行き場のない、未成年の子供が暮らす施設です。

行ったことはありませんが、知識として知っています。

「親戚はいないのですか?」

と、私は尋ねました。

両親がいなくても、他に親族はいるはず。

そして親族がいるなら、施設に入るより先に、親族に預けられるものでは?
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