アンドロイド・ニューワールド
でも。

「私はそうは思わない。きっかけなんて何でも良い。お互い気が合って少しずつ仲良くなろうが。クラスのあぶれ者同士が、仕方なく手を取り合うことになろうが。食パン齧ったまま曲がり角でぶつかろうと」

『…何故、食パンを口に咥えたまま、曲がり角を歩くことになる?』

比喩だよ比喩。

え?通じない?それすら通じない?

今時、食パンの出会いは古いのかなぁ。

あれ?私時代遅れ?

「ま、まぁそれは例えの一つとして…。ともかく、きっかけなんて何でも良いよ。その人が自分の友達で、瑠璃華ちゃんに良い影響を与えてくれるのなら」 

『それが問題だと言っている。たった一人の友人からしか影響を得られないのなら、わざわざ多くの人間が集まる集団に送り込んだ意味がない』

うん、そうかもしれないね。

「量より質って言葉、知ってる?」

『知っている。だがこの場合、質より量だ。不特定多数の人間から、様々な感情を学習する必要がある』

うん。あまりにも紺奈局長が正論ばっかり言うから。

反論するのが難しくなってきた。

だから、ちょっと意地悪をしてみようかと思う。

「そうだね。でもだからって、お宅の1110番、碧衣君だったかな?彼みたいに、多くのクラスメイトに愛想を振りまいて、八方美人するよりは…。たった一人でも良いから、心を通い合わせた真の友達を作った方が、良いと思わない?」

『…』

あ、黙らせちゃった。

ちょっと意地悪過ぎたかな。

でも、言っちゃったことは仕方ない。

「それに、見たよ?彼、うちの瑠璃華ちゃんに勝手に会いに来てたでしょ?」

『…それは知っている』

「確かに、『人間交流プログラム』を受けている『新世界アンドロイド』同士が接触してはいけない、という規則はないけど…。随分とやんちゃだね、碧衣君。相変わらず」

『あまり奔放なことはするなと言い聞かせているが、言うことを聞かない』

「良いことなんじゃない?瑠璃華ちゃんに会いに来たのは、瑠璃華ちゃんに『興味があった』からでしょ。凄く人間的な衝動だよ」

そういう意味では、彼もしっかり、『人間交流プログラム』の成果をあげているのだ。

「ただ、八方美人するのはどうかと思うけどなぁ。それで、本当に人間の感情を学べると思う?」

第4局から、瑠璃華ちゃんに関する報告書を送っているように。

第2局からも、碧衣君に関する報告書が送られてきている。

頑張って読んだよ、私。

「彼はとても上手だね。誰からも好かれるよう、意図的に振る舞っている。誰に教えられた訳でもないのに…。そういう意味では、彼はとても、人間的な『新世界アンドロイド』だ」

『…』

「だけど、彼の感情もまた、たった一人に偏ってるように見えるよ。瑠璃華ちゃんと話してたときの音声データ、君も聞いたでしょ?」

『…あぁ、聞いた』

「あれを聞いて、どう思った?」

『…』

と、紺奈局長は少し黙った。
 
そして、ちょっと困ったような、呆れてるような顔で言った。
 
『…相変わらず、困った奴だと思った』

うん。

君も相変わらず素直で、安心したよ。私は。
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