アンドロイド・ニューワールド
…そういえば。

「奏さん」

「何…?」

「別に運動会とは特に関係ありませんが、実は今日、『Neo Sanctus Floralia』の局長と副局長が、観客として見に来るそうです」

と、私は言いました。

すると。

「えっ…」

と、奏さんは予想以上に驚いていました。

「き、局長って?瑠璃華さんのお父さんとお母さんが見に来るってこと?」

「そうですね」

と、私は答えました。

局長と副局長は、私と血の繋がりはありませんが。

以前奏さんとのお話の中で、局長と副局長は、私の両親のようなものだ、と奏さんは言いました。

だから、そういうことにしておきます。

「メールが届いたんです。『運動会見に行きたいなぁ〜。ねぇ見に行っても良い?』との質問だったので、『問題ありません』と返信しました」

「なんて軽いノリで…」

と、奏さんは呆然として言いました。

何か不都合なことでもあったのでしょうか。

「早くから場所取り?に来ると言っていました」

「え?じゃあ、もしかしてもう来てるの?」

「さぁ。具体的な時間は聞いていませんが…」

と、私は言いました。

ならば確かめてみようと、教室の窓から、会場となるグラウンドを観察してみました。

早くから場所取りとやらに来ている保護者が、観覧席用テントに、ビニールシートを広げています。

成程、あのビニールシートに座って、私達生徒を高みの見物する腹積もりなのですね。

今日の私達は、彼らにとって良い見世物だということです。

チケット代とか、ちゃんと払って欲しいですね。

すると。

「あ、いますね」

と、私は言いました。

「え、何処?瑠璃華さんのご両親何処?」

「あそこです。見えますか?入場口手前の、観覧席の一番手前に、黒いビニールシートが見えるでしょう?」

「あ、あんなかぶり付きの良い席に…!どんだけ早くから来てるの…」

と、奏さんは呟きました。

ここから見たところ、局長は笑顔で、クーラーボックスからお菓子を取り出して、ビニールシートに陣取っていますね。

手に持っているあのお菓子は…。…あぁ、局長の好きなメーカーのチョコレート菓子ですね。

こんなところまで持ってきて、まだ種目が始まるどころか、開会式すら行っていないのに、既に飲食を始めているとは。

横にいる朝比奈副局長が、戸惑った顔をしている訳です。

「ま、不味くない?瑠璃華さん…」

「不味い?いえ、不味くはないですよあのチョコレート菓子は。私も食べさせられたことがありますが、様々なコスチュームを着たタヌキの模様がついたビスケットの中に、チョコレートが詰まっていて…」

「そ、そうじゃなくて!って言うか、そんなところまで見えてるの?」

「私、『新世界アンドロイド』ですから」

と、私は答えました。

「以前、あのタヌキのチョコレート菓子が懸賞キャンペーンを行ったことがあって、当選するとタヌキのぬいぐるみがもらえるそうですが、その為にダース単位で注文したことがあるんです。局長が。そのときに嫌と言うほど私も食べさせられたので、味はよく…」

「そうじゃなくって!一回タヌキから離れようよ」

「ちなみに、そこまでしても当選しませんでした」

「…それは気の毒だったね」

と、奏さんは言いました。

後で、久露花局長に伝えておきましょう。

奏さんが労っていたと。

「で、そうじゃなくって!」

と、奏さんは仕切り直しました。

「何ですか?」

「あんなところで見られてて、大丈夫なの?その、瑠璃華さんの立てた作戦って、傍目から見ると結構、その、アレだから…。ご両親としては、いくら友達とはいえ、異性な訳だから、倫理的に…」

と、奏さんはもごもごしながら、何やら色々と呟いていましたが。

「…」

と、私は無言でした。

…何が言いたいのか、理解不能です。

とりあえず。

「大丈夫。練習したことを忘れず、ベストを尽くしましょう。そうすれば、おのずと結果は出るはずです」

「…うん。瑠璃華さん全ッ然分かってなくて、全く大丈夫じゃない気がする…」

と、奏さんは遠い目をして呟いていました。

奏さんは、心配性なのかもしれません。
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