アンドロイド・ニューワールド
そこにいたのは。

『Neo Sanctus Floralia』第2局局長、紺奈局長と。

それにもう一人。

同じく第2局所属の、1110番『アロンダイト』。

今は、紺奈碧衣君だっけ。

「…ふぁれ!?ふぁんなほふひょー、ほれにはほいふん…?ほーひてほほに」

私は、まともに喋ったつもりだったんだけど。

全然通じてなかったみたいで。

「…ひとまず、口の中を空にしてから喋ることを勧める」

って言われた。紺奈局長に。

…真顔で言われると、結構来るね。

私は急いで咀嚼して、口の中を空にした。

ふぅ。

折角のタヌキのマーチ、もうちょっと味わって食べたかったよ。

それよりも。

「一体どうしたの?何で二人がここに?」

私がそう尋ねると、紺奈局長は。

「…自分は、『人間交流プログラム』の経過観察を兼ねて、1027番を見に来たのだが…」

と言いながら、ちらりと横を見た。

そこには、まるで紺奈局長の恋人のように、腕に抱きついて寄り添う、碧衣君の姿があった。

「だって、局長がわざわざ『Neo Sanctus Floralia』の外に出てきたんですよ?それはもう、僕に会いに来てくれたからに決まってるじゃないですか!」

物凄く嬉しそうな碧衣君である。

嬉しそうなのは良いんだけど…。

「…別にお前に会いに来た訳じゃなく、1027番の経過観察に…」

「外の世界でこうしていると、何だかデートみたいで素敵ですね!デートには向かないスポットですけど、僕は局長と一緒なら、何処でも嬉しいです!」

「…」

絶望的に話が噛み合っていないみたいだね。

紺奈局長も、もうどうしたら良いのか分からないみたいな顔になってる。

成程。紺奈局長が、『人間交流プログラム』を考案した理由がよく分かるよ。

確かに、碧衣君には人間の感情があると言えるだろう。

しかし、その感情は、圧倒的に紺奈局長に偏り過ぎている。

この、自分だけに偏りまくった感情を、外に向けさせなければならない。

その思いで、紺奈局長は『人間交流プログラム』を考えたんだろうなぁ。

しかし今のところ、その効果が現れているとは言いにくいのが、悲しいところ。

『新世界アンドロイド』に、性別はないけれど。

1110番の容姿は、男性用に作られている。

そして、紺奈局長も男性。

従って、その、何て言いますか。

男性同士がくっついて、ちょっとセクシャルマイノリティな光景になっている。

『Neo Sanctus Floralia』では、最早珍しくも何ともないが。

世間一般的には、ちょっと…。いや、偏見はないけど、ぎょっとする光景かもしれない。

実際、今紺奈局長と碧衣君の後ろを通っていったご家族が、ぎょっとしたようにこちらを見ていた。

…えぇと、なんか済みません。
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