アンドロイド・ニューワールド
「…」

と、私は無言で、紙に記された「お題」を見つめました。

『ご年配の男性三人』と書かれています。

要するに、年寄りの男性三人を連れて、一緒にゴールせよ、という指示ですね。

火星よりは、よっぽどマシなお題だと言えます。

しかし、これはこれで難題です。

何故なら、このお題が示す「ご年配」が、具体的に何歳以上を求めているのか分からないからです。

ゴール付近には、お題と借り物が一致しているか、確認している教師がいますが。

人によって、「ご年配」の定義は違います。

あの教師が、「ご年配」という言葉を何歳以上と捉えるのか、理解不能です。

もしかしたら、三十代以上でも、充分年配だと思うかもしれませんし。

何なら、二次性徴さえ迎えていれば、もう年配扱いで良いや、と思っているのかもしれません。

あるいは、100歳以上じゃないと、年配とは認めない方かもしれません。

この広いグラウンドの中で、あの教師が認める「ご年配の男性」を、見つけられるでしょうか。

それに、三人も必要な訳ですから。

運良く一人は見つけられても、あとの二人をどうするのか、という問題が残ります。

更に言えば、ご年配の男性を見つけても、その方が私に素直に借りられてくれるかは、また別の話です。

もし、「自分は絶対に、借り物にはならん!」という固い意志を持った、頑固ジジ、いえ。

信念のある男性だった場合、説得にも時間がかかります。

その場合、説得に時間を費やすか、それとも別の該当者を探しに行くか、究極の選択を迫られることになります。

それに、見た目が男性に見えるからと、声をかけてみたら。

実は女性でした、という展開も有り得ます。

そうなると、大変失礼極まりないですね。

その場合、謝罪に要する時間も考慮に入れなければなりません。

となればやはり、間違いのないよう、また文句のつけようのない、ご年配の男性を探す必要がありますね。

と、ここまで思考に要した時間は、僅か1秒足らずです。

そして私は、答えを出しました。

このグラウンドの中には、文句のつけようのないご年配、更には確実に男性だと把握している人物が3名います。

いえ、1名はちょっと、性別不明ですが。

見た目は完全に男性なので、問題ないでしょう。

そして恐らく、私の「借り物」となることを請け負ってくれるだろうと推測します。

ならば、あとは。

行動あるのみ、です。

私は、観客席に向かって走り出しました。
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