アンドロイド・ニューワールド
その頃。

「瑠璃華ちゃん、お題何だったのかな?」

と、久露花局長は呑気に、チョコレート菓子を摘んでいました。

あれは局長お気に入りのチョコ菓子、「パイの木の実」ですね。

小さなパイ生地の中に、チョコレートが詰まっているお菓子です。

しかし、今の私にはどうでも良いことです。

「さぁ、何でしょう。学生の借り物競争ですし、そんなに難しいお題ではない、え!?」

「へ?翠ちゃんどうしたの?」

「え、ちょ、る、瑠璃華さんが、こっちに向かってはしっ、」

「ふぇ!?」

と、久露花局長は言いました。

そのときには既に、私は久露花局長の目の前に立っていました。

「ど、え、ふぇ!?ど、どうしたのるりっ…」

「申し訳ありませんが、局長。お借りします」

「えぇぇぇぇ!?ちょ、私今パイの木の実を、」

「『パイの木の実を持っている方は不可』とは書いてないので、問題ありません。ではお借りします」

「えぇぇぇぇーっ!?」

と、局長は叫び声をあげていましたが。

私は気にせず、局長を片手で担ぎました。

さて、これで一人。

「うわぁぁぁぁ!翠ちゃん助けてーっ!」

「あ、え、えぇと…」

と、局長と副局長は言いました。

が、私の耳には聞こえていませんでした。

次は。

私は局長を肩に担いだまま、観客席からは少し離れた、フェンス越しに立ち見している二人に向かって、走り出しました。

「ふぉわぁぁぁぁぁぁ!!速い速い速い!舌噛むぶべぁはぁ!」

と、局長は私の肩の上で、何やら叫びまくっていました。

何なら、周囲の観客達も、呆然と私を見ているような気がしましたが。

きっと気のせいです。

そして。

私はものの10数秒で、彼らのもとに辿り着きました。

「…な、何があった?」

「瑠璃華さんじゃないですかー。こんにちは」

と、若干動揺した様子の紺奈局長と、碧衣さんが言いました。

「失礼ですが、碧衣さん。あなたの局長をお借りさせてくれませんか」

と、私は言いました。

借り物とはいえ、やはり、持ち主に許可は取らないといけません。

え?久露花局長には許可を取らなかっただろう、って?

久露花局長は誰の所有物でもないので、許可は必要ありません。
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