アンドロイド・ニューワールド
さて、ヘビエリアを抜けた先は。

「次は、ワニエリアですね」

と、私は奏さんの車椅子を押しながら言いました。

「…覚悟はしてたけど、またヘビーなの来たなぁ…」

と、奏さんは何やら、遠い目をして呟いていました。

確かに、ワニですからね。重量的には、ヘビよりヘビーでしょう。

図らずも親父ギャグみたいになってしまいましたが、私に心はないので、面白いという気持ちはありません。

「奏さんは、ワニも苦手なんですか?」

と、私は聞きました。

もしそうなら、ワニエリアも早めに抜けるつもりでした。

しかし。

「いや…大丈夫。ヘビに比べれば、だいぶマシ…」

と、奏さんは答えました。

何だか自信がなさそうですが、大丈夫でしょうか。

「確かに、ヘビと比べれば、ワニには毒を持つ種類は少ないですからね」

「あ、いやそういう意味じゃなくて…」

「しかし、ワニを侮ってはいけません。此奴らの、『噛む力』は、人間やヘビとは比べ物になりません。一度あの口の中に入ったら、無傷で出るのは難しいでしょう」

「…」

「でもご安心ください。もし奏さんがワニに襲われたら、私が盾になります。『新世界アンドロイド』の装甲は、いくらワニでも噛み砕くことは出来ませんから」

「…物凄く頼もしいんだけど、その分自分の情けなさが身に沁みるよ…」

と、奏さんは呟きました。

それはともかく。

「ほほう、これが噂のアリゲーターですか…」

と、私は早速、一匹目のワニを見て言いました。

「ヘビに負けず劣らず、良い面構えです。それに、この巨躯。勇ましいですね。是非とも、決闘を申し込みたいです」

「そ、そうだね…。…俺は…そんなアリゲーターに、平然と決闘を申し込もうとしてる瑠璃華さんの方が、ずっと勇ましいと思うけど…」

と、奏さんは呟いていました。

今度は、奏さんもちゃんとワニを見てますね。

何だか、ちょっと汗をかいてるようですが。

暑いのでしょうか。

「大丈夫です、奏さん。確かにワニに噛まれたら、人間はひとたまりもありませんが」

「だろうね」

「しかし、此奴らの武器はその程度です。ようは、口を塞いでしまえば良いのです。噛まれる前にロープで口をぐるぐる巻きにしてしまえば、こちらのものです」

「…凄く簡単に言うけど、その状況まで持っていくのが、まず不可能に近いよね」

「そして、この巨体の割には俊敏で、かつ泳ぎも得意だそうです。ワニと戦うときは、ちゃんと覚えておいてくださいね」

「ありがとう。俺、まずワニと戦うことはないと思うから大丈夫」

と、奏さんは言いました。

それなら安心ですね。

初めから戦わなければ、気をつける必要もありませんから。
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