アンドロイド・ニューワールド
さて、しばし雑談をしながら、注文したものを待っていると。

「お待たせしました」

ようやく、先程の店員さんが、ラテアートを施したマグカップを二つ、持ってきてくれました。

「えぇと、ナスカの地上絵を注文されたお客様は…」

「私です」

と、私は片手を上げて言いました。

すると私の前に、店員さんは白いマグカップを置きました。

そして。

「それじゃ、こちらはナイルワニのお客様に…」

と、店員さんは奏さんの前に、マグカップを置きながら言いました。

「それでは、ごゆっくり、おくつろぎください」

と、店員さんはゆっくり一礼して言いました。

はい。ゆっくりくつろぐとしましょう。

エスプレッソの良い香りがしますね。

久露花局長だったら、顔をしかめて逃げていきそうですが。

そして、肝心のラテアートの出来ですが。

「す、凄いね瑠璃華さん…。本当にナスカの地上絵だ…」

「はい。かなり精密に再現されていますね」

と、私は言いました。

私の前にあるマグカップには、なみなみとエスプレッソコーヒーか注がれ。

その上に白いミルクで、ミニチュアサイズのナスカの地上絵が描かれています。

さすがに、完全再現とは行きませんが。

傍目から見て、それと分かるくらいの出来です。

再現度が高いですね。

プロの意識を感じさせるお店です。

是非ともこのナスカの地上絵は、注文メニューに加えるべきですね。

そして。

「奏さんの方も、凄いですね」

「うん…。本当、頑張ってくれたんだなって…」

と、奏さんは言いました。

しみじみと、マグカップを見つめながら。

「俺、凄いナイルワニ好きな人だと思われたかな…。俺の趣味で注文した訳じゃないことは、知っておいて欲しかった…」

と、奏さんは何やら呟いていますが。

奏さんがナイルワニ趣味だったとして、このお店に何か不利益なことでもあるのでしょうか。

何もない気がするのですが。

それよりも、ワニの再現度です。

「パッと見、ちゃんとワニに見えるところは評価に値しますね」

と、私は言いました。

しかし、一つケチをつけるとしたら。

「問題は、これを見て万人がワニだと思っても、ナイルワニだと断定する要素がないことです」

と、私は言いました。

つまり、ナイルワニの特徴が表されていないという点ですね。

「いや、それは求め過ぎでしょ、さすがに…。ワニだと分かるだけでも凄いでしょ」

「そうですか?」

「万人が見て、『これはナイルワニだ!』って断定出来るラテアートがあったら、俺はその人に土下座してサインを求めるよ」

「そうですか…」

と、私は言いました。

そんなものですか。

あまり、無茶ぶりは良くないということですね。
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