アンドロイド・ニューワールド
結果。

ティースプーンを一本、マグカップの中に突き刺しただけで。

見事なナスカの地上絵は、ただのミルクが入ったエスプレッソコーヒーになりました。

現実は残酷です。

でも写真には残したので、このナスカの地上絵が、確かにここに存在したという証は、ちゃんと残せました。

それだけでも、良しとしましょう。

更に。

「…飲み物として飲んでも、普通に美味しいですね」

「でしょ?」

と、奏さんは言いました。

こんなに儚く散る命だからこそ、このエスプレッソコーヒーは美味しいのでしょうか。

奏さんのナイルワニも、あっという間に見る影もなくなっています。

切ないですね。

この世の儚さを知ることが出来る飲み物、それがラテアート。

成程、しっかり学習しました。

そうだ、学習と言えば。

「私達、勉強会しに来たんでしたね」

「そうだよ。…え?忘れてた?」

「いえ、忘れてはいませんが…」

と、私は答えました。

あまりにラテアートが儚くて、思わず後回しにしていただけです。

「では、勉強会を始めましょう」

「はい、お願いします瑠璃華先生」

と、奏さんは言いました。

私も、『新世界アンドロイド』として生まれて何百年と生きていますが。

先生と呼ばれたのは、これが初めてですね。

まだまだ、アンドロイド生には、初めてのことが多いですね。

何年生きても、世の中には私の知らないことが、たくさん溢れているものだと思い知らされます。

「今回は、奏さん用にテキストも手書きで作ってきたので、是非活用してみてください」

「本当…。本ッ当…ありがとうございます…!」

と、奏さんは深々と頭を下げました。

とんでもないことです。

私は今日奏さんのお陰で、ラテアートという、私の知る限りこの世で最も儚い飲み物の存在を、知ることが出来たのです。

そのお返しと思えば、これくらい、どうということはありません。

それでは、期末試験の為に、しっかりと万全な準備をするとしましょう。
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