アンドロイド・ニューワールド
「ちょ、く、久露花さん。大声で何を…」

と、慌てた様子で佐賀来教師は言いましたが。

関係ありません。

「…と、あなたは転入初日に、私に言いました。これが学園の掲げる校訓だと。これを神妙に守るべし、と」

「…それは…言ったけど、でも」

「私は校訓に従ってきました。奏さんにハンディキャップがあるのを知って、学校を相手取って、エレベーターを直すように脅迫しても良かったんです。あの忌々しい、運動会のクラス対抗リレーをやめるよう、恫喝しても良かったんです」

と、私は言いました。

相変わらず、職員室中に聞こえるように。

「どうしても奏さんを部活に入部させない、バドミントン部の顧問相手にも、訴えても良かったんです。でもしませんでした。何故か?伝統に従順であれ、と校訓に書かれているからです。だから私は不満を抑えながらも、あなた方の言う悪しき『伝統』を守ってきました」

と、私は言いました。

このような悪しき伝統は、守る必要はないと思うのですが。

しかし、それがこの星屑学園の伝統であり、生徒ならば伝統を守るように、と言うのなら。

私は守りましょう。

そして。

「慈愛と博愛の精神を持て、と言いました。この学園で今のところ、その精神を持って学校生活を送っている者は、生徒教師問わず、私と奏さん以外、一人もいないように思えますが」

と、私は言いました。

だって、そうでしょう?

「皆心身共に逞しいはずなのに、誰一人、ハンデのある奏さんに慈愛と博愛の精神を向ける人はいません。生徒も、教師も。私と奏さんだけです。この校訓を守っているのは。己等が掲げた校訓さえ守れないなら、今すぐこの学園から去った方が良いと思います」

「なっ…」

と、佐賀来教師は言いました。

同時に、怯んだように一歩、後退りしました。

しかし、私は逃しません。

一歩後退りするなら、私は二歩前進します。

「誰一人慈愛と博愛の精神を持っていないようなので、私が代わりに強い心を持ち、自らの足で困難を打ち砕き、奏さんでも参加出来るよう、手を変え品を変え、代案を提示して、決して彼を諦めたりしませんでした」

と、私は言いました。

この人達は、普通の生徒のように出来ないと見るや、「ならば放っておこう」という主義なのですよね。

個を大事にしない、脆い集団。

それが伝統で、その糞ったれな伝統を遵守するのが校訓だと言うのなら、それでも良いでしょう。

しかしこの校訓の中には、強い心を持って、困難を自分の手で打ち砕くように、とも書いてあります。

私には心がありませんが、しかし困難を打ち砕く手段なら、いくらでも考えられます。

そして、今までずっと、その手段を実行し。

奏さんが、引け目を感じることのないように努力してきました。

だって私達生徒は皆、平等な存在なのですから。

人間は皆等しく平等で、人の命に貴賤はないと、この国の憲法に書いてあります。

私は憲法を守り、校訓を守り、そして奏さんを守り。

そうして、『人間交流プログラム』を実行してきたに過ぎません。

何故、校訓どころか憲法すら分からないような連中に、説教されなければならないのでしょうか。

あなた方こそ、校訓を再度暗記し直すべきです。
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