アンドロイド・ニューワールド
私と佐賀来教師の間に、しばしの沈黙が流れました。

「あ、あの…だ、大丈夫ですか?」

と、隣で聞いていた、別の教師は言いました。

あれは確か、学年主任でしたね。

何が「大丈夫ですか」なんですか。

あなたこそ大丈夫なんですか。

「大丈夫ではないでしょう。見て分からないんですか?」

と、私は学年主任に言いました。

「あなたは学年主任でしょう。つまり、奏さんを仲間外れにしよう、と学年全体に呼びかけている存在のようなものです」

「えっ…。そ、そんなつもりは」

「あなたにそんなつもりがなくても、そんな責任が伴っているんです、学年主任という立場なら。奏さんは、中学校の頃からクラスで幽霊呼ばわりされ、無視されていたと聞きます。知っていたんじゃないんですか?」

「…それは…」

と、学年主任は言い淀みました。

「誰よりも率先して、奏さんを仲間外れにする空気を、一掃しなければならなかったはずです。その努力を怠り、無視しているだけなら、学年主任なんて私でも出来ますね」

と、私は言いました。

だって、面倒なことは何もかも、無視していれば良いんでしょう?

楽なものです。

え?授業は出来るのかって?

余裕です。

道徳以外の授業なら、何でもこなしてみせましょう。

私には心がないので、道徳だけは教えられません。

それにしても、この場に校長がいないのが残念です。

校長は、今頃校長室で、ふんぞり返っているのでしょう。

学校の校長として、一番この問題について、真面目に取り組んで欲しいところですが。

いないのなら仕方がありません。

今すぐ校長室に押しかけて、直訴しても良かったのですが。

私は伝統に従順ですし、おまけに。

この後、奏さんとバドミントンをする予定なので。

これ以上、無駄な時間を浪費したくはありません。

「今度また、そのような戯れ言が私の耳に入ったら、今度こそ第三者に立ち会ってもらって、話し合いましょうね。どちらの言い分が正しいか。その方がお互いスッキリして良いでしょう」

と、私は言いました。

佐賀来教師他、職員室中の教師は呆然として、何も言いませんでした。

が、私には関係ありません。

「それでは、用事はもう済んだようなので、私は教室に戻ります」

と、私は踵を返しながら言いました。

誰も、私を引き留める者はいませんでした。
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