アンドロイド・ニューワールド
すると。

「やべ、初めて見たこんなの」

「これって本当なの?カンニングじゃない?」

「知らないよ、そんなの」

「すげー。漫画みたいだな」

「あの電波ちゃんって、こんなに勉強出来たの?」

「絶対カンニングだって。これもキャラ作りの一環なんだよ」

と、掲示板を取り囲む生徒は、口々に言いました。

…今、電波ちゃんと言いましたよね。

それって、私のことですよね?

私と奏さんが掲示板に近づくと、彼らは私達の姿を認め、そして口を噤みました。

何ですか。

どうせさっきのも聞こえていたんですから、堂々と目の前で喋っても良いんですよ。

『新世界アンドロイド』の集音性能は、人間のそれとは比べ物になりませんからね。

しかし、カンニングの意味は分かりますが。

キャラ作り、なる言葉の意味が分かりませんね。

奏さんなら知っているかと思って、聞こうとしたら。

その前に、奏さんの目は、掲示板に釘付けになっていました。

「え、う、嘘!」

と、奏さんは言いました。

「誰かが嘘をついたんですか?」

と、私は聞きました。

私の親友に嘘をつくような輩は、私がお灸を据えてあげましよう。

しかし。

「これ!これ見て!瑠璃華さん、一番!全科目満点で、一位だって!」

と、奏さんは鼻息を荒くして言いました。

同時に、彼の指差す先には、模造紙に書かれた期末試験成績上位者の名前一覧。

その一番上に、私の名前と、私の取った点数の記載がありました。

私の許可なく、私の名前と点数を、勝手に晒し者にするとは。

人権侵害ですね。

私は人間ではないので、関係ないかもしれませんが。

「凄い!瑠璃華さん頭が良い、いや、頭が良過ぎるから、真面目に試験を受けたら満点も夢じゃないとは思ってたけど、本当に全科目満点を取るとは!凄い!さすが瑠璃華さん!俺の家庭教師!」

と、奏さんは興奮した様子で言いました。

私は奏さんの家庭教師なんですか?

珍しく奏さんにしては、周囲を気にせず大騒ぎですね。

ところで。

「奏さんの名前もありますよ。ほら、七位のところに」

「え、そうなの?でもそんなことどうでも良いって!凄い!全科目満点で一位を取った生徒なんて、聞いたことないよ!もしかして瑠璃華さん、学園初なんじゃない?凄い!」

と、奏さんは言いました。

さっきから「凄い」を連発して、語彙力の低下が見られますね。

奏さんもリスト入りしてるんですが、そちらの方はどうでも良いんですか?

「ね?瑠璃華さんなら、やれば出来るって言ったでしょ?」

と、奏さんは、まるで我が事のように喜んでいました。

…そうですね。

私達は親友なのですから、片方に良いことがあったら、もう片方も一緒に喜ぶものです。

だから、奏さんは喜んでいるのでしょう。

そして。

「奏さんも七位に入っているので、おめでとうございます」

「ありがとう。…あ、そういえば俺、リスト入りしてるの初めてかも」

「?中間試験のときは?あのときも良かったのでは?」

「あ、いや。あのときは、瑠璃華さんがまさかの無回答だってことに驚いて、掲示板を見に行くのも忘れてたから…」

と、奏さんは言いました。

そうだったんですね。

では、奏さんは中間試験のときも、このリストに名前が載っていたかもしれないのですね。

みすみす見逃してしまって、ちょっと残念です。
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