アンドロイド・ニューワールド
「今日の昼食は、焼きそばパンとチョコチップメロンパンにしました」

と、私は言いました。

つい先程、購買部で買ってきたものです。

「相変わらず、焼きそばパン好きだね、瑠璃華さんは…」

と、奏さんは言いました。

今日の奏さんの昼食は、登校時にコンビニに寄って買ってきた、ベーグルサンドのようです。

ベーグルサンド。私は食べたことがありませんね。

ドーナツなら、食べたことがありますよ。チョコドーナツです。

勿論、久露花局長からのお裾分けです。

しかし奏さんのベーグルサンドには、チョコの要素は全く入ってない様子。

それどころか、ハムやチーズ、レタスなどが挟まれています。

形状は、ドーナツと同じく真ん中に穴が空いているのに、ベーグルサンドは甘くないのでしょうか。

興味深いので、今度私もベーグルサンドを買ってみることにしましょう。

世の中には、甘いもの以外の食べ物も、たくさんあるのですね。

『人間交流プログラム』を始めてから、私はそれを学びました。

「この食べ物が私にとって、『人間交流プログラム』の原点のようなものですからね」

「そ、そうなんだ…。焼きそばパンが原点って…。人生分からないものだね」

「そうですね。私は人ではなく、『新世界アンドロイド』ですが」

と、私は言いました。

そして、焼きそばパンに齧りつきました。

うん、相変わらず、変わらない安心感を覚える味ですね。

こういうのを、実家のような安心感、と言うのです。

しかし、誰にとっても実家が安心感を覚える場所である、とは限らないので。

この言葉は、万能ではありませんね。

私にとって、実家である『Neo Sanctus Floralia』第4局は、安心感を感じる場所ですが。

奏さんにとっては、実家は安心も何も出来ない場所となっていますから。

それなら、奏さんにとって安心出来る場所って、何処なんでしょう?

と、考えていたそのときでした。

「ちょっと、久露花さん」

と、クラスメイト女子生徒は、私に声をかけました。

何でしょうか?

「はい?」

「廊下で、あなたに会いたいって人が舞ってるんだけど…」

と、クラスメイトの女子生徒は言いました。

私に会いたい人?

「誰でしょう。教師ですか?」

「生徒会長よ」

と、クラスメイトの女子生徒は言いました。

生徒会長?

「生徒会長と言うと…今朝、全校集会で喋ってた人ですか?」

と、私は奏さんの方を向いて聞きました。

「そ、そうだけど…。何で、生徒会長が瑠璃華さんを名指しで?」

「さぁ。全く身に覚えがありません」

「とにかく、私は伝えたから。早く行ってあげてよ」

と、クラスメイトの女子生徒は、若干苛ついたように言いました。

伝言を頼まれただけで、何故怒るのでしょう。

カルシウム不足が懸念されます。

「とりあえず、行ってみましょうか。奏さん、私の焼きそばパンを見張っててください」

「み、見張るって…。誰も盗ったりしないよ」

「あ、ですが奏さんは親友なので、ちょっと齧っても良いですよ」

「…それは有り得ないでしょ…。こんな、丸齧り出来る食べ物で…」

と、奏さんは呆れ顔で、意味不明なことを言いました。

親友と食べ物をシェアすることに、何の問題が?

ともあれ。

呼ばれる覚えはありませんが、廊下で生徒会長が待っているなら、行ってみなければいけませんね。

私は昼食の摂取を断念し、席を立ちました。
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