アンドロイド・ニューワールド
「なら、久露花さん。俺の恋人になって欲しいんだ」

と、生徒会長は言いました。

これは衝撃の告白です。

クラスメイトに、「友達になってくれ」と頼んでも、奏さん以外まるで相手にされなかった私が。

なんと今、生徒会長に、「恋人になってくれ」と、向こうから頼まれました。

これは衝撃ですね。

人生で初めての体験です。

「どうかな?」

と、生徒会長は聞きました。

すると、ギャラリーが小声で、ひそひそ言っているのが聞こえました。

「嘘、何で生徒会長があんな奴と?」

「えぇ〜…。ショック…。私も生徒会長好きだったのに」

「私も。まさかあんな奴を選ぶなんて」

と、ギャラリーは言いました。

あんな奴って、私のことですか?

「嫌なら、無理にとは言わないけど…」

と、生徒会長は言いました。

…ふむ。

「済みませんが、ちょっと考えさせてください」

と、私は言いました。

私は現在、紺奈局長が考案した『人間交流プログラム』を実行中の身です。

その内容は、人間との関わりを経験するにつれて、人間の感情を理解することにあります。

そして人間の感情を理解するには、出来るだけ多くの人間と接し、人によって違うその感情の機微を学習し。

それを自らのものにするというのが、このプログラムの大題です。

今現在、私には親友の奏さんがいますが。

しかし、私の周囲にいるのは、何故か奏さん一人だけです。

勿論、奏さん一人だけでも、充分多くの感情を学ばせて頂きましたが。

ここに来て、初めて相手の方からお誘いを受けました。

友達ではなく、恋人関係だそうですが。

それはそれで、悪くないかもしれません。

今度は、奏さんとは違う視点から、人間の感情を学ぶことが出来るでしょう。

そう思えば、この申し出は悪くありません。

と、ここまで考えること、僅か1秒未満。

「勿論、ゆっくり考えてくれれば、」

「分かりました。そのお誘い、お受けします」

「え、はやっ」

と、生徒会長は言いました。

え?私、ちょっと考えるって言いましたよね?

ちゃんと考えましたよ。

「良いの?本当に?」

「はい、構いませんよ」

と、私は言いました。

「あぁ、良かったぁ…。断られたらどうしようって思ってたんだよ」

と、生徒会長は、大袈裟なまでに安堵して言いました。

「じゃあ、今日の放課後にでも、一緒に帰らない?」

「いえ、今日は部活があるので無理ですね」

と、私は答えました。

何の部活かと言うと、それは奏さんとの仮バドミントン部です。

「そうか…。じゃ、明日は?」

「そうですね。明日なら良いですよ」

「良かった。なら、明日一緒に帰ろうか。玄関口のところで待ってるから」

「はい、分かりました」

と、私は答えました。

すると生徒会長は、大変満足したような笑顔で手を振り、去っていきました。

…何でしょう。

親友以外に、恋人というポジションから私の『人間交流プログラム』に貢献してくださる、貴重な方を見つけたというのに。

私は今とても、胸の奥の方に、異物感を感じます。
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