アンドロイド・ニューワールド
「…うん。そう…そう、だよね」

と、奏さんは言いました。

見たことがないくらい、人はこんなに絶望出来るのかという顔をしていました。

どうしてでしょうか。

「分かってた癖に…。瑠璃華さんみたいな、優しくて、賢くて…綺麗な人が、自分に釣り合うかもしれないなんて…考えるのもおこがましいのに…」

と、奏さんは呟きました。

更に。

「…ごめん…」

と、何故か奏さんは謝罪しました。

その瞳に水滴が浮かんでいるのを見て、私は思わず、奏さんに近寄ろうとしました…が。

私が奏さんに近づく前に、彼は顔を上げました。

乾いた笑顔でした。

「大丈夫だから。気にしないで」

「でも…奏さん…」

「瑠璃華さんは、初見一風変わってるように見えるけど、根は優しくて良い人だって知ってるから。生徒会長も、瑠璃華さんのそういうところに惹かれたんだろうね」

と、奏さんは言いました。

決められた台本を、淡々と読んでいるかのような口調で。

「生徒会長と仲良くね。それと…もう、放課後にバドミントン、付き合ってくれなくて良いから」

「えっ」

と、私は思わず言いました。

「週末にも、出かけるのはもうやめよう」

「何故ですか?」

「彼氏がいるんだから、当たり前でしょ。これからは、生徒会長と出かけなきゃ」

「…」

と、私は黙ってしまいました。

何故そうなるのか分かりません。

親友は親友、恋人は恋人なのでは?

何故恋人が出来た途端、親友との付き合いがなくなるのでしょうか。

「…ありがとうね、これまで。自分のことを、ちゃんと人間扱いしてくれたの、瑠璃華さんだけだった。だから瑠璃華さんは、俺よりもっとちゃんとした人と一緒になって欲しい」

「…言っている意味が分かりません」

「大丈夫だよ、分からなくても。瑠璃華さんには…もう関係ないことなんだから」

と、奏さんは言いました。

そして、そのまま、それ以上何も言わずに。

ラケットをその場に置いて、一人で体育館を出ていってしまいました。

…奏さんの言っていたことの意味は、相変わらず分かりません。

ですが、何故でしょう。

私には心がないはずなのに。

何故か、あるのはずのない心に、穴が空いたような気がするのは。
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