アンドロイド・ニューワールド
『…それで、瑠璃華ちゃんは…その生徒会長さんに告白されて、すんなりOKを出したんだ?』

と、久露花局長は聞きました。

「はい」

『その…好みだったの?生徒会長のこと』

と、局長は聞きました。

好み?

「私に好みはありません」

『いや、でもOKしたってことは、何処か生徒会長さんに、良いところがあったからでしょ?』

「?そもそも今日顔を合わせただけで、普段は全校集会くらいでしか見たこともないので、彼がどんな人となりをしているのかは、全く知りません」

と、私は答えました。

とはいえ、生徒会長に選ばれるくらいなのですから、それなりに賢く、要領も良い人なのでしょう。

別に、彼がどんな人でも構いません。

だって、全ては『人間交流プログラム』の為に…。

…。

『え、じゃあ…何でOKしたの?』

「ですからそれは、『人間交流プログラム』の為に。友人だけではなく、恋人もいれば、また別の感情を学ぶことが出来るでしょう?」

『…君にとって友人や恋人は、『人間交流プログラム』の為の道具なの?』

と、局長は聞きました。

…奏さんも、生徒会長も、『人間交流プログラム』の為の道具?

…言われてみれば、確かにそうなのかもしれません。

「そうではないのですか?私は『新世界アンドロイド』として、『人間交流プログラム』を通して人間の感情を学ぶ為に、この学園に来たのです。ならばそこで私が交流する人間は全員、私が人間の感情を学ぶ為の材料ではないのですか?」

『…じゃあ、生徒会長さんのことが好きな訳じゃないんだね?』

「出会ったばかりなのに、好きも嫌いもありません」

『…』

と、久露花局長は、またしても無言になりました。

珍しく、真剣な眼差しでした。

いつの間にか、片手に持っていたアーモンドチョコレートの箱も消えています。

『…奏君は、君が生徒会長さんと交際することを知ってるの?』

「?知っていますが、それが何か?」

『奏君…様子がおかしくなったりしてなかった?』

と、局長は聞きました。

そう、私もそのことを聞こうと思っていたのです。

「はい。いきなり奏さんは、『もう一緒に部活をしない』とか、『週末のお出かけもしない』と言い出して…」

『…そりゃ言うでしょ…』

「しかも、何故か少し泣いていたんです。彼の涙の意味が分かりません」

『…』

「でもそれ以上に分からないのが、私の…」

と、私は言いかけました。

私の、存在しないはずの心が、何故こんなに喪失感でいっぱいなのか。

それを、久露花局長に聞こうと思ったのですが。

『瑠璃華ちゃん』

と、私の言葉を遮るように、局長は言いました。

「はい」

『ちょっと、時間をくれる?この件について、紺奈局長と相談してみるから』

と、局長は言いました。

?紺奈局長と?

「何故、紺奈局長が関係あるのですか?」

『それはこっちの話。瑠璃華ちゃんは…しばらく、そのまま待機しててくれる?』

「…分かりました」

と、私は答えました。

久露花局長に質問しようと思っていたのに、何だかそれどころではない雰囲気です。

結局、私は局長に何も尋ねることが出来ないまま、通信が終わりました。

…相変わらず、胸の奥の喪失感が消えません。

これは、一体何という名前の感情なのでしょう?
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